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外伝 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
もしも 〜 其処に有る危機(4)
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ヴァレンシュタイン中将が陛下の前で膝を着いて頭を下げた。
「ヴァレンシュタイン中将、今度の武勲、まことに見事であった」
「恐れ入ります」
「そちは今士官学校の校長だそうだな」
「はっ」
「ふむ、妙な所に居るな。そちには詰まらぬのではないか?」
当然だろう、そんな事は!

「そのような事は有りません。生徒達と毎日を楽しく過ごしております」
「そうか……。立つが良い」
陛下が立つ事を命じたにも拘わらず中将は起立しなかった。
「如何した? ヴァレンシュタイン」
「恐れながら、勲章の授与は辞退いたします」
黒真珠の間にざわめきが起きた。皆が顔を見合わせている。ロイエンタール、ミッターマイヤー、皆訝しんでいる。

「その代わりと言っては何ですが陛下にお願いがございます」
リヒテンラーデ侯が“控えよ! ヴァレンシュタイン”と叱責したが陛下が“よい、言うてみよ”と中将に発言を許した。
「今月二十五日に士官学校で卒業式が有ります。陛下の御臨席を賜りとうございます」
またざわめきが起きた。中将の事だから私利私欲の願いではないと思っていたが卒業式か。

「予に卒業式に臨席せよと申すか……」
「陛下の御臨席を賜れば卒業生達も感激致しましょう。そして誇りを持って戦場に赴くでしょう」
「ふむ、そちは無欲よの。……良かろう、その願い聞き届けた。卒業式には出席しよう」
「はっ、有り難き幸せ」

陛下が何を思ったか笑い声を上げた。そして笑うのを止めると中将を覗き込むように身を乗り出した。
「そちはなかなか駆け引きが上手いの。皆の前で予に約束させるとは。これでは破れぬの」
「そのような事は……」
「無いと申すか?」
陛下がまた笑い声を上げた。

陛下の御臨席か、羨ましい事だ。俺の時には軍務次官が来て終わりだった。卒業し任官する事への嬉しさは有ったが感動の様なものは無かったな。……そうか、陛下が御臨席されるとなれば帝国軍三長官も無視は出来ん。いや、三長官だけじゃない、ブラウンシュバイク公、リッテンハイム侯も出席するかもしれない。盛大な卒業式になるな。俺も行ってみるか、正規艦隊司令官なのだ、出席してもおかしくは無い……。



帝国暦487年 5月 10日 オーディン 新無憂宮   エーレンベルク元帥



レポートを読んでいたリヒテンラーデ侯がジロリと私達を見た。好意等欠片も感じられない。新無憂宮南苑にある陰鬱な部屋には似合いの表情だ。
「相変わらず落ち着きのない男だ……。今度は捕虜交換か……」
リヒテンラーデ侯が渋い表情で呟いた。唯一の救いはその非好意的な感情が我々に向けられたものではない事だろう。

「それで卿らはどう思うのだ」
リヒテンラーデ侯が私、シュタインホフ元帥、ミュッケンベルガー元帥を見た。
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