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古城の狼
9部分:第九章
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うものはよくわからない。正直そうですか、とかはあ、とか答えるしかない。幾ら何でもドラマとは違うということ位わかる。
「申し訳ないですがこの時計は暫くお預かりします」
「やはり」
 これは予想していた。
「犯人捜査の重要な手懸かりですので。検査が済み次第すぐにお返しします」
「どうも」
「その間どうされます?よろしければ腕時計をお貸ししますが」
「いえいえ、いいです」
 流石にそれは図々しい。僕は断った。
「これがありますから」
 そう言って携帯電話を取り出した。そこにはタイマー機能もある。
「携帯電話ですか。それなら問題ありませんね」
 獣医はそれを見て微笑んだ。
「ええ。日本製ですよ」
「おや、奇遇だ。私のものもですよ」
 彼はそう言って自身の携帯を取り出した。
「今までは我が国のものを使っていたのですが評判がいいので。噂通りの性能ですね」
「そうでしょう。僕も好きですよ。色々と細かい機能もついていますし」
「人によってはそれが煩わしいと言いますけれどね」
「まあそれは人ぞれぞれです」
 携帯の話をして別れた。森を出た時は夕刻近くになっていた。
 夜の森は危険だ。人狼がいるならば尚更だ。僕は城に戻った。
「お帰りなさいませ」
 執事が出迎えた。そして僕を夕食に誘う。
「わかりました」
 僕は一旦部屋に戻り荷物を置きシャワーを浴びた後食堂に案内された。昨日と同じく主人が待っていた。
「グーテナハト」
 主人は微笑んで挨拶をしてくれた。僕はその微笑みを見てふと思った。
(やはりあの神父とは違うな)
 当然といえば当然であるがそれ以前に何か異質なものを感じる。
 何だろう、僕は考えた。やはり何処か生気が感じられないのだ。
 人はその身体にそれぞれの気というものを持っている。生きているという息吹である。
 それが全く感じられないのだ。まるで人形のようである。
 それはこの主人だけではない。執事や他の使用人達もである。まるで城全体が作り物のように感じられた。
 僕はようやくそれに気付いた。気付くとあまりにも不気味であった。
「どうかなされましたか?」
 主人はその無機質な声で僕に問うてきた。
「いえ、何も」
 僕はそれを打ち消す様に答えた。そしてテーブルに着いた。
 今日は羊料理だった。だが羊の匂いはあまりしない。

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