5部分:第五章
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第五章
結局僕はこの城に暫く留まることにした。奥方は僕がそう言うとにこりと微笑んだ。その時歯が見えた。白い象牙の様な歯だったが犬歯が妙に鋭いと思った。
その日僕は昼前に森に向かった。そしてその中に入り森林浴を楽しみ散策した。
「森林浴なんてずっとしていなかったな」
僕はふと思い出した。昨日は森の中を見て回ることだけしか考えていなかったのだ。
「こうして久し振りに味わってみるとやっぱりいいな。心が落ち着く」
昨日の不気味な気配も忘れて僕は切り株の上に座り森林浴を楽しんだ。
一時間程楽しむと再び散策を始めた。足下にすみれの花を見つけた。
「お、すみれか」
僕はすみれが好きだ。その色も大きさも気に入っている。
「ここでも見られるなんてな。ドイツのすみれも中々いい」
機嫌をよくした僕は森の奥へ進んだ。すると野ばらを見た。
「野ばらか」
不意に僕はシューベルトの歌を思い出した。そして笑った。
「面白いな。ドイツで野ばらか」
そしてその野ばらに顔を寄せてよく見てみた。見れば美しい赤色である。
「薔薇の色とは少し違うな。これはこれで独特の色だな」
僕はそう思いながらその野ばらを見た。
花びらに触ってみる。水気がある。
その時指に何か着いた。水の様だ。
「?露か?」
違った。それは露ではなかった。それに露はもう消えている時間だ。
見てみた。それは赤い色をしていた。
「蜜・・・・・・なんかじゃないな」
そう、それは血であった。
「どういうことだ」
不意に恐ろしさが全身を襲った。得体の知れぬ何かを感じた。
何故この野ばらに血が着いているのか。僕は不意にそう考えた。
「先にここに来た人が棘で指を傷付けたのか・・・・・・?」
違った。棘はどれも綺麗なままであった。それに若いのだろう。棘はどれもまだ柔らかい。
「だとすれば・・・・・・」
辺りを見回した。しかし何処にも傷を付けたと思われるものはない。
その時だった。何かが僕の左頬に落ちて来た。
「雨・・・・・・!?」
頬に落ちたそれを左の指で拭った。それは雨ではなかった。
それも血であった。紅い血であった。
「どういうことだ・・・・・・!?」
思わず上を見上げた。そこには大きな木の枝がある筈だ。
木の枝はあった。緑の葉も生い茂っている。
だがそこにあるのは緑の葉だけではなかった。別のものもあった。
「な・・・・・・」
僕はそれを見て絶句した。そこには人がいたのだ。美しい若い女の人だ。
その女の人は生きてはいなかった。生気の無い眼で僕を見ていた。その喉から血を流しながら。
「そうですか、貴方が見た時には既に木の上に」
携帯で呼んだ警官の一人が僕に事情を聞いてきた。死体は今目の前で運ばれて行
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