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古城の狼
5部分:第五章
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っている。
「はい、喉から血を流しながら」
 僕は答えた。ありのままを言った。
「喉ですか。それで一つ妙なことがあるんですがね」
 警官は考える顔をして言った。
「貴方は動物の事にお詳しいですか?」
 彼は僕に尋ねる目で聞いてきた。
「?はい。大学は生物学を専攻しておりますので」
「それでは。実は私は獣医学を専攻していたのですが」
 そう言うと担架で運ばれようとする死体の前に来た。
「これを見て下さい」
 そう言って担架に架けられている毛布を取った。
「あ・・・・・・」
 その死体を見て僕は絶句した。あまりにも無残な死体であったからだ。
 所々食われ右手と左足は無かった。食い千切られているようだ。
 喉から血を流していると思ったが違っていた。その喉は喰われ千切れかかっている。そして片目も無い。
「・・・・・・これを見てどう思われますか」
 彼は僕に尋ねてきた。
「・・・・・・そうですね」
 僕はその無残な死体を見ながら言った。
「この歯形は狼か何かしらの大型のイヌ科の動物のものと思われますが」
「ですね。私もそう思います」
 彼は表情を曇らせたまま答えた。
「狼ではないでしょうか。これ程の大きさの歯から察しますと」
「やはりそう思われますか」
「はい。この辺りは狼も多かったと聞きますし」
 僕はそう言いながらも違う、と思った。
 何故なら狼は人は殆ど襲わない。まして食べ物など村に行けば多量にあるというのに。村はすぐそこだ。
 そして何よりもわざわざ木の上に登って食べるなどとは。虎や豹ならいざ知らず狼は木には登らない。
「ただ一つ気になることがあります」
 彼は死体の千切れかかった首を指差して言った。
「狼は確かに相手の喉笛を狙います。しかしそれはあくまで相手の息の根を止める為なのです」
「そういえば犬もそうですね」
 僕は軍用犬等を思い出しながら答えた。
「はい。狼はその後は食事にかかります」
「というと首は切らないんですね」
「そうです。それは狼の習性の一つです」
「ということは・・・・・・」
 僕はその警官の顔を見ながら尋ねた。
「はい。これは狼の仕業ではないと思います」
 彼は暗い顔で答えた。

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