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目覚めると
第一章
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                       目覚めると
 久米仙人は洗濯をしていた女の脚を見て目と心を奪われ神通力を失い空から落ちてからその女を妻とした。だがやがてその神通力も戻り仙人に復し女房にも仙術を伝え仙女としたうえで夫婦で長きに渡って暮らしていた。
 しかし平安も終わりに近付く頃にだ、仙人は女房にこんなことを言った。
「少し寝るか」
「では朝起きましたら」
「いやいや、一晩寝るのでない」
「と、いいますと」
「仙人は何年も起きられるが何年も寝られるな」
「はい」
 それが仙人だ。起きるのも寝るのもどれだけでも出来るのだ。
 そのことからだ、仙人は女房に言ったのだ。
「もうじき戦になる」
「戦ですか」
「本朝では久しくなかったが」
 それがよきことだった、東国の叛乱と瀬戸内の海賊の乱はあったがそれ以降は久しくなかった。だがそれがというのだ。
「近々な」
「だからですか」
「その戦の間はな」
「寝て、ですか」
「難を逃れようぞ」
「そうされますか」
「少なくとも戦が終わるまではな」
 寝て難を逃れようというのである。
「そうしようぞ」
「わかりました、では何年程寝られますうか」
「十年か」
「十年ですか」
「それだけ寝てな」
「そして戦が終わった時に」
「また起きようぞ」
 こう言ってだった、仙人は女房と共に寝た。この時仙人は十年程で起きるつもりだった。
 そして寝てから目を覚ました、そのうえで。
 寝床から起きて家を出た。それから共にいる女房に言ったのだった。
「では外に出てな」
「太平が戻った世をですね」
「見てみようぞ」
「そうですね。ただ」
「うむ、どうやらな」
 世の空気を察してだ、仙人は女房に答えた。
「寝過ぎたのう」
「十年どころか」
「数百年か」
「それ位はな」
「寝てしまいましたね」
「それはな」
「迂闊だったと」
「うむ」
 こう女房に答えた、まだ寝惚けている顔で。
「多少な」
「そうですね、私も」
「十年はな」
 仙人にとってはというのだ、不老不死の。
「ほんの一睡じゃが」
「熟睡してしまいましたね」
「相当にな」
「それでは」
「とりあえずじゃ」
 また言った仙人だった。
「外に出るか」
「そうしよう、まずはな」
 こう言ってだ、そしてだった。
 仙人は女房と共にだった、一旦外に出た。家の外は普通に山があり川がある。そういったものは全く変わっていなかった。
 だが気は違っていた、それでだった。
 仙人は女房にだ、こう言った。
「都に行くか」
「はい、まずは」
「都に行けばわかる」
「今どうなっているか」
「あの時の都は公家達がおってな」
「牛車に乗ってでしたね」
「歌を詠んだりしておったが」
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