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木綿の様に
第四章

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「綿みたいになる方がいいか」
「絹よりもか」
「麻よりもな」
 綿の様にというのだ。
「着心地がよくて落ち着けて何にでも使える」
「そやな、人間も綿みたいやったらな」
「いいな」
「その通りや、与平もわかったみたいやな」
「かもな、じゃあ旦那にもなったし」
 結婚してだ、彼はこのことにも思うのだった。
「綿みたいな人間になるか」
「そうなってくんやで」
 きねは孫に笑って言った、そして。
 この時から与平も考えが変わった、綿を見てこう言うのだった。
「やっぱり綿が一番いいな」
「おい、結婚してから随分変わったな」
「そう言うなんてな」
「前は絹が一番って言ってただろ」
「それが今は綿か」
「綿が一番か」
「ああ、そう考える様になったよ」
 実際にとだ、自分と同じ村の若い衆にも答える。
「着心地がいいし何でも使えるからな、夏も冬も着られるしな」
「それはな」
「その通りだな」
「何時でも着られるからな」
「絹とか麻と違って」
「そこが違うな」
「そうだ、だからな」
 それでというのだ。
「今はこう思うんだよ」
「綿が一番か」
「何ていっても」
「それで綿みたいにな人間にもなりたいな」
 仲間内でもこう言うのだった。
「是非な」
「綿みたいな、か」
「そんな人間にか」
「ああ、何時でも何にでも役に立つな」
 そういう風な、というのだ。
「人間になりたいな」
「そういえば何かそんなこと言ってる人いたな」
「ああ、庄屋敷の方にな」
「そんなこと言う人がな」
「いるっていうな」
「どんな人なんだ、それは」
 与平もその話を聞いて興味を持った。
「わしと同じこと言う人がいるんだな」
「ああ、何か凄い歳でな」
「お婆さんらしいな」
「そっちのきね婆さんよりも歳取っててな」
「不思議な人らしいな」
「どんな人なんだろうな」
 ここで与平はきねのことも思った、きねにしても七十五になっていて結構な歳だ。だがそのきねよりも年上ということも気になりだ。
 その人がどんな人か気になりだ、こう言ったのだった。
「一回その庄屋敷村にも行ってみるか」
「ああ、そうしてみたらどうだ?」
「一回な」
「そうしてみるな」
 実際にとだ、与平は答えた。彼がその村に行くのは後のことになるが今はこう思うのだった。綿が一番いい、そして綿の様な人間になりたいと。


木綿の様に   完


                           2015・5・15
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