第五章
[8]前話
「番をしていた兵士が間違えたんだ、ただの間違いでだ」
「間違いですか」
「そうなのですか」
「だからだ、決して捕虜虐待ではない」
シリアーニは誓って言うのだった。
「君達にそんなことをするつもりは毛頭ない、だからだ」
「だから?」
「だからといいますと」
「ここは私に免じて兵士を許してやってくれ、彼は君達に何の悪意もない」
「いえ、そんな」
「許すも何も」
二人は呆然としたままシリアーニに答えた。
「食事のあまりもの豪勢さに驚いただけで」
「捕虜虐待とかとても」
「想像していません」
「誓って言います」
「ならいい、次からは君達に将校用の食事を出す」
シリアーニは誓って言うのだった。
「その様にする」
「わかりました」
二人はシリアーニの言葉に呆然となったまま頷いた、だが。
そのシリアーニが従兵と共に二人の獄から出た後でだ、こう言った。
「嘘みたいだな」
「本当ですね」
心から二人で話した。
「あれが兵士の食事か」
「あれだけ豪勢なのに」
「イタリア軍の将校は普段どんなものを食べているんだ」
「想像出来ませんね」
「いや、本当にな」
「凄いものを食べているんですね」
そしてだ、実際に朝昼晩とだ。イタリア軍の将校用の食事を食べてみてだ、オーストンは共に食べているテューダーに言った。
「イギリス軍の食事は最早食えたものじゃない」
「イタリア軍の食事を食った後だと」
「そうだな、我々はイタリア軍に殺された」
「その舌を」
まさにというのだ、テューダーも。
「完全にやられましたね」
「その通りだな、カンタレラはないがな」
「イタリア軍にやられましたね」
「食事ではイタリア軍に完敗だ」
「戦争では勝っていても」
「まあ我々は捕虜になっているがな」
オーストンは自分達のことを言うことも忘れない。
「しかしそれでもだ」
「はい、負けてますね」
「全く、我々は酷いものを食べている」
「どうにかならないですかね」
こう二人で話すのだった、そして実際に北アフリカでイギリス軍がアメリカ軍の助力もありイタリア軍だけでなくドイツ軍にも勝ってだった。
そのうえでだ、二人は無事捕虜収容所から解放されて懐かしのイギリス軍の食事を食べてみてあらためて話した。
「まずいな」
「ええ、最高にまずいですね」
「このまずさが懐かしいな」
「いい悪いは別にして」
こう二人で話すのだった、その缶詰とパンやビスケット、それに紅茶を口にしてそのうえでの言葉であった。
捕虜の食事 完
2015・5・17
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