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父との絆
第四章

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「そうなるわよ」
「そしてか」
「入院するから」
 それで、と言う妻だった。
「残念だけれどね」
「現地調査には行けないか」
「無理でしょ、実際に」
「ああ、そうだよ」
 その通りだとだ。
「折角楽しみにしてたのにな」
「そうなったのもね」
「不摂生のせいだっていうんだな」
「その通りよ」
 まさにと返す妻だった。
「気をつけなかったからよ」
「今更言っても仕方ないがな」
「それじゃあ俺は一人で行くな」
 啓介は呆れた顔のまま言った。
「そうなるな」
「ああ、残念だがな」
「ガキの頃からの約束だっただろ」
「ははは、酒と甘いものは怖いな」
「今更言うか?しかしな」
 それでもだった、彼もわかっていて言う。
「今更言ってもな」
「仕方ないな」
「入院して後は養生しろよ」
「酒とお菓子は止めてな」
「癌じゃないだけましか」
「ああ、そっちの心配はなかった」
 こちらの病気のそれはというのだ。
「肝硬変と糖尿病だよ」
「そっちはやばいんだな」
「結構な」
 実際そうだというのだ。
「だから入院することになったんだよ」
「じゃあ養生してな、俺だけで行って来るさ」
「深海はいい場所だぞ」
「それは楽しみだよ。ただな」
「ただ?」
「俺一人で行くのも何だから代わりに何か持ってくか」
 こうも言うのだった。
「親父の代わりにな」
「ものをか」
「何か持って行くけれどどうだ?」
 こう父に提案するのだった。
「海までな」
「そうか、それじゃあな」
「何を持って行けばいい?」
「俺が子供の頃に作ってな」
 ここでだ、久作が言うことはというと。
「ずっと部屋に飾ってるボトルシップ持って行け」
「あれか」
「ああ、あの瓶詰めの船な」
 昔のガレオン船だ、それが瓶の中にあるのだ。
「俺の宝物だ、持って行け」
「あれでいいんだな」
「ああ、俺の分身みたいなものだからな」
 だからだというのだ。
「あれ持って行け」
「それじゃあ持って行くな」
「持って行っても割るなよ」
 久作は息子に笑ってこのことは念を押した。
「俺の分身だからな」
「わかってるさ、持って行ってもな」
 それでもだというのだ。
「厳重にダンボールやスポンジで包んでおくからな」
「そうしてくれると有り難いな」
「それじゃあな、それ持って行くからな」
「俺だと思って一緒に潜れ」
 深海にとだ、久作は啓介に笑って言った、だがすぐに苦笑いになってこうしたことも言ったのだった。
「俺はここで闘病生活だ」
「養生しろよ」
「これからは酒も甘いものもなしか」
「これまで無茶苦茶やってたから仕方ないでしょ」
 ここでだ、優子がまた夫に言う。
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