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夫を救った妻の話
夫を救った妻の話
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 その声は本気であった。それを聞いて壬は不吉なものを確かに感じた。
「ううむ」
 彼は辺りを見回した。丁度昼時で腹も空いてきたところである。
「あちらで詳しいお話をお聞きしたいのですが」
 そして目についた店を指差して言った。
「はい」
 仙人はそれに従った。そして二人はその店に入った。
 壬は飯と羊の肉を頼んだ。仙人は精進ものの麺を頼んだ。それを見るとこの仙人はやはり偽りではないようだ。
 これはどの国にもあることだが導士や仙人、僧侶でありながら肉食をする者もいるのだ。そうした不埒な輩が多いことを考えるとこの仙人は信じてもよさそうだと思った。
(今回だけではわからぬがな)
 それでも最初でこうしたことを見ると信じたくなる。壬はそうした人の心理を思った。
「そのお話ですが」
 仙人は麺をすすりながら言った。
「貴方はあやかしに取り憑かれております」
「あやかしにですか」
「はい、どうやらかなり危険な存在です。このままではそれに肝を取られ食われてしまうでしょう」
「肝を」
 それを聞いて顔が青くなった。
「そうですね。貴方に憑いているのはどうやら鬼です」
「鬼」
 中国では鬼とは霊のことを言う。それは点鬼簿や鬼籍という言葉はここから来ている。特に怨霊の類は人々に最も恐れられている。
「それもかなり悪質なようですな。人を食らう類のもののようです」
 壬の顔を見ながら言う。
「何か思い当たることはありませんかな。例えばお友達のご様子が急に変わったりとか」
「それは」
 思い当たるところはなかった。皆今までと変わりはない。
「若しくは新しいお知り合いができたとか」
「知り合いですか」
 考え込んだ。そういえばあの女を囲った。
「近頃妾を新しく持ったのですが」
「妾を」
 ここで仙人の目が光った。
「はい。そういえば何かとおかしな点も」
 彼はそこであの女のことを詳しく話した。話を聞く仙人の顔がどんどん険しくなっていく。
「どのような点ですかな」
「はい」
 壬はその仙人の只ならぬ様子に驚きながらも答えた。
「いえ、いきなりこの街に出て来たようですし。それに身寄りもないとか」
「身寄りがない」
「それに家には何もなくて。本当に貧しい家でした」
「他には」
「はい。それで囲ってからはそれよりはずっといい家に住まわせているのですが鏡も置きませんし。それでいて化粧はするのですから奇妙といえば奇妙ですが」
「鏡を」
 仙人はそこに一際強く反応を示した。
「ええ。それが何か」
「間違いありませんな。その女はおそらく鬼です」
「何故ですか」
「鏡を置かれないのでしょう」
「はい」

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