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旱魃
3部分:第三章
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 左衛門も他の同僚達もこの言葉には目を顰めさせずにはいられなかった。
「何故娘が成仏したことで雨が降るのだ?」
「おかしいではないか」
「これがおかしくはないのです」
 しかし坊主はそれでも彼等に対して言うのであった。
「唐である話ですが」
「うむ」
 この時代は明であるが昔から中国をこう呼ぶことが多い。
「浮かばれぬ霊が旱魃を引き起こすことがあるのです」
「そうだったのか」
「はい。それでその霊を成仏させると」
「雨が降るというのか」
「そういうことです。いや、唐だけのことだと思っていました」
 坊主もまさか日本で同じようなことがあるとは思っていなかったようである。それで意外といった顔を彼も作って上を見上げそれで雨を受けていた。
「それがこうして。いやはや」
「そうなのか。だが恐ろしいものだな」
 当然ながら左衛門も雨を受けている。彼もまた上を見上げ顔で雨を受けていた。
「人の霊が旱魃まで起こしていたとはな」
「大したことはないようで大したことがあるものです」
 坊主はこうも彼に話した。
「人というものは」
「そうだな」
 左衛門は彼の言葉を受けて上を見上げたまま頷いた。雨は激しく降り続いている。
「それがわかったような気がする」
「そうだな」
「全くだ」
 同僚達もそれに頷く。これはにわかには信じられない話であるが実際に歴史に残っている話である。都で旱魃が起こりそれはある霊を鎮めて終わった。人の魂というものは常に何らかの形で人の世に影響していくものであるということであろうか。


旱魃   完


                  2008・1・20

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