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渦巻く滄海 紅き空 【上】
九十二 女の意地
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どこかしら見下していたのは、確かだった。


色々な面で器用な自分と、不器用なあの子。
要領が良い自分と、敬遠されていたあの子。
誰からも好かれる自信があった自分と、自信の無いあの子。
共に過ごした日々にて、ずっと比較されてきた。
無意識に、あの子と比べられる自分を。
優秀とされてきた自分と比較されるあの子を。
慰める一方で、優越感に浸っていたのかもしれない。

だからだろうか。
あの子に手を差し伸べた理由が同情だとか憐れみだとか、そんなつもりは無いけれど。
それでも、自分を慕ってくる立場に悪い気はしなかった。
あの子は、自分を目標にしているのだと。
自分に憧れて追い駆けているのだろうと勝手に思い込んだ。

けれど、今や逆だ。

劣等感の塊だったあの子がどんどん心身共に成長するのを目の当たりにして、嬉しく思うのと同時に生まれたのは酷い焦燥感。
自分はあの頃と全く変わらないのに、あの子はずっと先を見ている。前へ前へと進んでいる。
その一方で、単なる器用貧乏なだけの自分は、大した取り得のないくノ一に過ぎないのだ。

追い駆けられていたはずが何時の間にか追い越されている。その事実を認めたくは無い。
でも、どうすればよいのか解らない。
努力だとか精進だとかは今まで自分には縁の無いモノだと思っていたのだから。
それに自分は女だ。女というのはか弱い生き物で、男には敵わないモノだ。
そんな甘ったれた言葉を言い訳にして、何もしなかった、そんな愚かな自分が。
どうしようもなく。


…―――――だから、私は。






「あんな奴らを相手に一人って……無茶に決まってんだろ!?」

噛みつくような反論。
主人に賛同して吠える赤丸と、そしてキバを交互に見遣ってから、いのは静かに双眸を閉ざした。

確かに自分は戦闘には向いてない。しかも一つの身体に二つの心という、実質上二人いる敵を相手にどう立ち向かうのか。

「そうね…でもどちらか一人なら、なんとか出来そうな気がするわ」
突然何の前触れもなく、大声で話し出したいのに、キバはぎょっと顔を引き攣らせた。

「おい、いの」
「二人いると言っても身体は一つ。出来る事は限られるわ。私とキバ、どちらかが先へ行くとして、一つの身体ではどちらか一人しか追えない。二兎を追う者は一兎をも得ずって言うじゃない?」
「いの」
「それに、一人…えっと兄のほうはせっかちな性格のようだから、弟は兄の言いなりで動くのかな?でも実力的に弟のほうが強かったら、兄が弟の言う通りにするのかしら。忍びの世界は弱肉強食だしね」
「いの…っ」
「左近と…右近だったかしら。どっちが、」

―――弱いのかしらね?


わざと暗に告げられた言葉は確実に右近・左近の
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