九十二 女の意地
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けなくした髪である。
正直、現在のいののチャクラ残量はほぼ無いに等しい。敵を上手く出し抜かなければいけないという緊張感も相まって体力も限界に近い。加えて、目の前の崖は切り立っているにも拘わらず、なめらかな岩肌故に滑りやすそうだ。その為、繊細なチャクラコントロールが必要となる。
普段のいのならば、このような崖をよじ登るなど造作もないのだが、体力・チャクラ共に限界である今の状況では難しいだろう。だからこそ、自分の身体を支える補助的手段として、先ほどの髪を利用しようと考えたのである。
すぐさま髪にチャクラを流し込み、いのは崖の岩肌に視線を遣った。切り立った岩肌の一つに目をつけ、咄嗟に髪糸を投げる。チャクラを流し込んだ髪の毛はまるで縄の如き丈夫な太糸だ。
ソレを使って、とにかくこの窮地を脱しようとした矢先。
「てめぇだけ助かろうなんざ虫がいいんだよ…ッ」
目を覚ました左近に立ち切られた。
切れた髪の糸。
自分が助かる最後の希望を、いのは目の前で失った。
散りゆく金糸と共に墜ちゆく我が身。
同じように墜落する右近・左近を目の端に捉えながら、彼女は静かに自嘲した。
(やっぱり私は……戦闘に向いてなかった、な……)
後方支援向きの能力故に、いのは陰ながら努力した。
父親から心理学を学び、敵の心を乱す術を教わった。
シカマルが頭脳戦を特技とするならば、自分は心理戦を得意にしようと。
そして今回、仲間の足を引っ張る自身に嫌気が差し、相打ち覚悟で右近・左近との闘いに挑んだ。
ルーキーの中でも群を抜いて優秀とされてきた自分自身の矜持を保ちたかった。
びゅうびゅう、と喚き散らす風の中、いのは空を見上げた。
口許に自嘲を湛えたまま、彼女はゆっくり双眸を閉ざす。直前の視界にて、墨のように真っ黒な鳥が微かに垣間見えた気がした。
刹那、誰かに抱えられる。
墜落死を覚悟していたいのが恐る恐る眼を開ければ、色白の少年が呆れたような顔で彼女を見つめていた。
直後、わざとらしい笑顔を浮かべる。
「君、自殺志望者ですか?」
色白の少年―――サイは、その整った顔に似合わぬ毒舌でいのに微笑みかけた。
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