序章1 敗戦
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雨が降っていた。数刻ほど前まで凄惨な戦場であったこの地を、天からの恵みが朱を洗い流すかのように降り続ける。その光景はどこかもの悲しくあり、しかし同時に優しくも感じる。そんな矛盾をどこか他人事のように思うのは、自身が倒れ伏し、動けないでいるからだろうか?
「ああ、そうか。私も此処で、終わりなのか……」
ぼんやりと呟く。その声に応える者は無く、ただ自分の声だけが響き渡った。ぽたりぽたりと雨が頬を伝い落ちるのを感じる。果たしてそれは雨だけなのだろうか?
既に体はまともに動かなくなってきており、徐々にだが確実に力が抜けていくのを感じる。視線だけ移し、辺りの様子を見る。ただただ、屍が横たわるのみであった。自軍の兵と敵軍の兵が倒れているが、少し見ただけでも自軍の兵士の方が倒れている数が多いの事がみてとれた。
「負けた、か。敵の狙いは解っていたが、最早詮無きことか」
油断などなかった。大まかな敵の狙いなども解っていたし、対策するよう進言もした。だが、聞き入れられなかったのである。敵軍を完膚なきまでに打ち破ったその日に、仕掛けて来るなどあり得ない。と、我が主君は高をくくっていたのだ。それ故、夜襲などの警戒を怠った。そして危惧通り、打ち破られたのである。
「悔いはある、が、それは言っても仕方がない事か。己の力不足を恨むとしよう……」
雨の降り続く天にむかい、まだ僅かに感覚の残っている右腕を伸ばす。自分の血とも返り血ともつかない血液が、腕を伝い雨に流されていく。
ふと、この敗戦の中で主は逃げおおせることができたのだろうかと言う事が気になった。好ましい人物ではなかったが、一応は主として仕えた人物である。多少の情は移っていたのかもしれない。
惨めな敗戦だった。自分以外にも何人か警戒していた将が居たのにもかかわらず、持ちこたえることすらできず打ち破られた。とても無事でいられるとは思えないが、それだけは気になると言えば、気になった。いざ落ち着いて考えてみると、仮にも知将として名を馳せた主にしては、不審なところがあった。勝利したからこそ、油断なく構え付け入る隙を与えるべきでは無いにもかかわらず、そんな隙を見せた。大勝に酔っていたとしても、どうしても解せなかった。そのようなミスを、犯すのだろうか? それとも噂が独り歩きしただけで、実際にはその程度の男だったのだろうか。雨に打たれながら、考え続けるも、明確な答えなどでなるはずはない。
とはいえ、既にこの身にできる事も無い。敗れ、倒れ伏す自分には、ただただ、考える事しかできないのである。もっともそれも長く続きそうにないが。
「願うなら……次こそは『』を貫きたいものだ」
呟いた。瞼が重く視界が歪み始めていた。伸ばした右手もすでに地に落ち、感覚は無くなってきている。ああ
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