序章1 敗戦
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だ。だが、空を見ていた時、ソレに気付いた。
「炊事の煙がこれまでと比べて多すぎる」
「煙、ですか? 確かに多いような気はしますが、それが?」
ユン・ガソルの陣から上がる煙が明らかに多いのである。もしかすると、倍以上あるのではないだろうか?
兵士はそんな俺の言葉を不思議そうにしながら聞いている。そこから推測できるのは、飯を多く作っていると言う事だった。戦が始まったのは何日も前からであり、その間何度もユン・ガソルの陣から上がる煙を見ている。それと比べて、記憶違いと片づけるには多過ぎるほどの煙の量だった。十中八九飯を多く作っているのである。
「夜襲をするとしたら、そのまま朝まで戦う事になるだろう。成功すれば相手はこちらを一方的に責めらるのだから、押しに押してくるだろう。どれだけ続けるかは知らないが、普通に考えれば一、二食分の支度はしておくだろう。だから、あれだけ多いのだろう」
「しかし、敗戦で下がった士気を持ち直すために、多くの飯を作っているとは考えられないでしょうか?」
「恐らく、ない。そもそも、ユン・ガソルの地は攻城兵器等の発展により、汚染されている。それ故、食糧に余裕があるとは思えないし、あったとしてもそんな無駄な使い方はしないだろう。下がっている士気を多少維持したところで、意味などない」
「となれば、攻めるしかないと」
「だろうな。仮に間違っていたならばそれでもかまわん」
「成程。ならば私は部隊に戻り、備えましょう」
「頼む」
麾下の疑問を切って捨てる。本人も自分の言に自信があったわけではないらしく、直ぐに納得し、駆けていく。
戦の常道から考えて、敗走したその日のうちに奇襲すると言うのは、前例がないとまでは言わないが、奇抜な事であった。それ故、警戒されにくいと言う事だ。何より相手は巷ではバカ王と呼ばれているギュランドロス・ヴァスガンである。何を仕掛けて来るか予測できたものでは無かった。そう考えると、十分に仕掛けて来ると思えた。仮に来なかったとしても、問題は無かった。笑い話の一つになるだけなのだ。たしかに負担にはなるが、この程度で音を上げるような兵は、そもそも戦場で生きていけないのである。奇襲に警戒するのは当然の事なのである。それを怠れば、遅かれ早かれ、死ぬだけなのだ。
「では、俺も行くとしよう」
呟き、ノイアス元帥の野営地に向かう。その場にいたのが自分一人だった所為か、何気なしに俺と言って居る事に気付いた。苦笑する。どうやら自分も、相手を打ち破ったことで気付かないうちに油断していたのである。気付けていなかったらと思うと、ぞっとする。
一度剣を抜き、一気に振り抜いた。それで、自身の中の油断を切り裂いた。再び、剣を鞘に戻す。それで、終わりだった。
そして報告に向かった。
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