序章1 敗戦
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にしたくはなかったのである。
ふと、思いだし、左腕を見た。予想外に深い刀傷があった。いまだに血が、流れている。問題なく手綱を操れていたためあまり気にしていなかったが、思ったより傷が深い。とりあえず、治療が必要か。そんな事を思いつつ、兵を引いた。
思えば、これが最初で最後の戦らしい戦だったのかもしれない。
ユン・ガソル軍を退けたあと、自陣で負傷者の治療の指示や戦線の報告をした後、手持無沙汰となったため、小高い丘から戦場となった地を眺めていた。視線の先には、自陣より離れた位置にユン・ガソル軍が布陣しておりその旗がたなびいているのが確認できた。こちらの強襲によりユン・ガソル軍を混乱状態に陥れ、敗走させることには成功したが、思ったほど戦況は良くなかった。予定では、この地よりユン・ガソル軍を撤退させるつもりだったのである。だが、現実には相当離れているとはいえ、ユン・ガソル軍を撤退させることができず、今また膠着状態に入っている。
戦場には、ユン・ガソルの王以外にも三銃士が集結していた。それ故思いの外敵軍が強襲の混乱から持ち直すのが速く、こちらの追撃を凌ぎきったと言う訳である。
三銃士が揃っていると言うのは開戦前から知っていたのだが、それでも一度指揮系統を乱してしまえば、潰走させることなど容易だろうきめてかかっていた。だが、現実にはこちらの猛攻を凌ぎきり、依然として対陣していた。これは、此方の将兵が弱いと言うよりも、敵軍が破格だと言わざる負えなかった。流石は音に聞こえた三銃士と言う事だろうか。ユン・ガソル王自慢の懐刀と言う事だけはある。戦況としては芳しくないのだが、思った以上の相手の強さに感嘆すると同時に、心が躍った。予想以上の敵に、こちらも負けていられないと、静かに思う。
「……。ユン・ガソルが奇襲、いや夜襲に来るかもしれない」
「は? 夜襲、でしょうか?」
空を見上げた。既に日も落ちかかっており、両軍のあちこちから飯を作る煙が上がっていた。この地は戦場であるが、だからと言って四六時中戦っているわけではなかった。戦う物の大半は、人以外にも種族はいるのだが、メルキア帝国とユン・ガソル連合国の主力は人間である。両軍は兵器と魔導兵器に秀でた国ではあるが、それを使うのは人であった。だとすれば、食事をするし、排せつもする。場合によっては性行為に及ぶ者もいるかもしれない。まぁ、それは兎も角、要するに戦場とは言え、戦っているだけではいられないのである。
「そうだ」
「何故、と問うてもよろしいですか?」
俺の言葉に、傍にいた麾下の一人が聞き返してくる。持ち直したとはいえ、敗走させた軍である。しばらくは守りに徹するだろうという意識があるのだろう。俺だってつい先ほどまではそう思っていたからこそ、悠長に構えていたの
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