暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアート・オンライン〜Another story〜
GGO編
第193話 温かい背中
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 シノンは、見てしまったのだ。その現実(・・)を。

 死銃がマントから引き抜いた右手に持たれていた銃。
 遠目からでは、ただの拳銃だろう、程度にしか判らなかったが、ここまで近くで見ればはっきりと判った。

 それを見て、シノンは全身がまるで凍りついたかの様な感覚に見舞われた。

 変哲のないハンドガンだ。今まで、この銃よりも強力な銃は見た事がある。

 あの男が使っている《デザートイーグル》も其の1つだ。それも改造されていて、銃身が伸び、威力も初速も桁外れに上がっている《カスタムマグナム》。あれに比べたら、生易しいモノだ。そう言い聞かせていた。

 だけど……出来なかった。

 その威力は、シノンにとって、()が違ったから。

 死銃が左手をスライドに添えて、丁度銃の左側面がシノンの目に晒された。全金属性グリップと、その中央に存在する小さな刻印。


――中心に、星。……黒い星。


 そう、かの銃は、未だシノンを……朝田誌乃を苦しめ続けている代物。


――黒星(ヘイシン)、五四式。あの銃。


 心臓を、……否、全身を鷲掴みにされているかの様に、全く動く事が出来ない。握られている感覚なのに、全身が氷の様に冷たい。……何時もの氷とは全く別ものだ。まるで、地獄から、……黄泉から死の冷気が身体に流れ込んできたかの様に。


――なん………で、なんで、いま、ここに、あの銃が。


 力を失った右手から、最後の望みであるサブアーム、《グロッグ》が右手から滑り落ちる。だが、シノンは唯一の武器を手放した事すら、全く意識する事が出来なかった。

 撃鉄(ハンマー)を、かちっ、と音を立てて引き起こし、左手はそのままグリップを包み、半身ウェーバー・スタンスでシノンを照準する。不意に、ぼろマントのフードの内部の暗闇が歪んだ。


 ……過去からの奔流が、現実へと流れ出てくる。


 髑髏の様なマスクに覆われていて、表情が見えない筈なのに……眼もスコープの光しか見えない筈なのに。粘液の如く揺れ、どろり滴り、その内部から2つの眼が現れたのだ。

 血走った白眼、小さな黒眼、散大した瞳孔のせいで、深い孔の様に見える。


――あの男。5年前の……。あの眼。


 そう、自分の母親を、撃とうとしたあの男。……幼い自分が、無我夢中で銃に飛びかかり奪い、……そして殺した。


――いたんだ。ここに、この世界に。


 全身が動かないシノンが、……誌乃がそう思ってしまうのも無理は無いだろう。この銃、そして明確な殺意。それらがかつての闇を起こしてしまったのだ。現実世界だけではなく、この世界にまで……。


――この世界に、潜み、隠れて、……私に復讐する時を待ってい
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