巻ノ十三 豆腐屋の娘その十一
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「どうしても」
「うむ、家のことを考えるとな」
「上杉家もそれが問題になりましたし」
「ああ、謙信公は奥方がおられなかったしな」
ここでだ、清海も言った。
「毘沙門天を信仰されておってな」
「それで後で揉めたな」
「景勝殿が継がれたがな」
「ご子息がおられなかったからな」
謙信は妻も側室も持たず生涯不犯であった、当然大名では稀と言ってもまだ足りぬことだった。それで子息がいる筈もなかった。
「だからじゃな」
「うむ、景勝殿と北条家から入られていた景虎殿が争われたが」
「あれは一歩間違えるとじゃったな」
「大変なことになっておった」
上杉家の中がというのだ。
「散々に乱れるところじゃった」
「そうならなかったのは僥倖か」
「いや、僥倖ではない」
清海にだ、幸村がすぐに言った。
「上杉家のそのことはな」
「僥倖ではないと」
「うむ」
「と、いいますと」
「上杉家には出来人がおられる」
「直江兼続殿ですな」
すぐに筧が言って来た。
「あの方ですな」
「聞いておったか、御主は」
「はい、上杉家の主となられた上杉景勝様の懐刀」
筧は幸村に確かな声で答えた。
「お若いながら上杉家の執権を務めておられますな」
「そうじゃ、あの御仁がおられるからな」
だからだというのだ。
「上杉家はとなったがすぐに収まった」
「まずは謙信公が蓄えておられていた軍資金を収められ」
「春日山城にも入られてな」
「そのうえで戦われました」
その景虎とだ。
「そうされたので、でしたな」
「上杉家の乱はすぐに収まり景勝公が主となられた」
「そうでありましたな」
「上杉家に直江殿ありじゃ」
こうも言う幸村だった。
「あの方がおられる限り上杉家は確かじゃ」
「ううむ、そうした方がおられますか」
清海は幸村と筧の言葉を聞いて唸る声で言った。
「それは凄いですな」
「だからあの家も侮れぬぞ」
「ですな、謙信公だけではありませぬか」
「謙信公はもうおられぬ、しかしな」
「上杉家にはまだ人がおるということですな」
「そういうことじゃ」
まさにというのだ。
「そのことは覚えていてくれ」
「ですな、上杉家は真田のすぐそこにおります」
霧隠が言って来た。
「ですから」
「あの家のことは常に見てな」
そうしてというのだ。
「気を払わねばならぬ」
「そうですな」
「徳川家や北条家だけではない」
「上杉もまた然り」
「そうなる。しかし上杉家は信濃には入ってもじゃ」
それでもというのだった、幸村はここで。
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