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真田十勇士
巻ノ十三 豆腐屋の娘その十
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「一つの町で商いをする者もいますが」
「それでもものは一つの町で賄えぬことも多い」
「だからですな」
「商売も天下が泰平でこそじゃ」
「栄えますな」
「戦国の世も商いは出来ておった」
 確かに戦は多かった、しかし商人の往来はありそれなりに栄えている町も多かった。このことは信濃も同じだった。
「しかし本当に栄えるにはな」
「泰平であってこそ」
「まことに栄える、だからな」
「まずは泰平であってこそですか」
「そうじゃ、確かに前右府殿が倒れ天下はどうなるかわからなくなった」
 再びだ、天下は乱れるかも知れないというのだ。幸村は天下の流れについて決して楽観してはいなかった。
「羽柴殿が次の天下人に近いといってもな」
「そうですな、それがしも思うに」
 筧の読みはというと。
「羽柴殿は天下人になられます、すぐにです」
「その足場はもうj固まっておるか」
「はい、そのこともありますので」
「だからじゃな」
「羽柴殿が天下人になられます」
 筧はまた言った。
「そして天下は泰平に向かうでしょう」
「やはり次は羽柴殿か」
「はい、ただ」
「ただ。何じゃ」
「羽柴殿にはお子がおられませぬ」
 筧はここでこのことを言った、秀吉個人のことである。
「一門の方も少ないです」
「あの御仁は百姓の出」
 穴山は秀吉のこのことを筧に言った。
「そのせいでじゃな」
「うむ、代々の譜代の臣というものもおらぬな」
「そうじゃな、あの方には」
「弟の羽柴小竹殿がおられるが」
「それでもじゃな」
「一門衆は三好家に行かれた秀次殿位、とかく後がおらぬ」
 跡継ぎがというのだ。
「もう四十を過ぎておるのにな」
「羽柴殿は女好きと聞いたが」
 海野も秀吉のことを言った、彼のこのことは天下に知られていることだ。
「隠し子でもおられぬか」
「おられるかも知れぬが」
「しかしか」
「表には出ておらぬ、おられても出られるのならな」
「同じことか」
「そうじゃ、そこが気になる」
「後は秀次殿が継がれるのではないのか」
 由利が言った。
「そう思うが。わしは」
「そうだと思うがな。しかしな」
「あの御仁には跡継ぎがおらぬ」
「このことが気になるのう」
「羽柴殿の泣きどころはそれか」 
 望月も考える顔になっていた。
「万全ではないか」
「跡継ぎは必要じゃ」
 筧はこのことは絶対とした。
「おらねばまさにその後がわからなくなる」
「そうじゃな、どの家もな」
「そういうことじゃ、羽柴殿はとかく子がおられぬ」 
 実は息子だけでなく娘もいない、秀吉はとかく女好きであるが何故かこれまで子が一人もいないのである。
「四十を過ぎた、そろそろ跡継ぎがおられぬと」
「天下人になられても」
 伊佐も言った
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