巻ノ十三 豆腐屋の娘その七
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「いや、まことにな」
「流石都じゃな」
望月は食べつつ唸っていた、その味に。
「これ程美味い豆腐があるとは」
「この湯葉も美味いぞ」
根津はそれを食べていたが彼もまた唸っていた。
「こんな美味い湯葉ははじめてじゃ」
「そもそも湯葉なぞ都と比叡山の他はあまりない」
清海もその湯葉を食べている、まるで馬が草を食う様に。
「都だからな」
「こうしたものが食えるか、しかしここまで美味い豆腐とは」
由利もその豆腐を食べていてそのうえで言う。
「ご主人も兄上も素晴らしいのう」
「こんな美味い豆腐は本当にない」
l霧隠もこう言うのだった、ただ普段の澄ました感じはそのままだ。
「それを馳走になるとは果報」
「娘殿も母上の難も過ぎた、まさに一件落着よ」
穴山も食べながら言う、そして飲んでもいる。
「よかったわ、まことにな」
「そうじゃな、豆腐も美味い」
猿飛も食べている、それも清海に負けない位の勢いで。
「こんないいことはないわ」
「あの、それでなのですが」
娘は幸村に問うた、勿論彼も食べて飲んでいるが気品のある仕草だ。粗末な家の中であってもそれが見えている。
「お武家様と家臣の方々は都に留まられるのでしょうか」
「いや、間もなく大坂に向かう」76
「大坂にですか」
「そうする、そして国に戻る」
こう娘に話した。
「これよりな」
「左様ですか、大坂に」
「近頃あそこは賑やかになっていると聞いた」
「はい、羽柴様があそこに入られるとか」
娘もこの話は聞いていて知っていた。
「そしてとてつもなく大きなお城を築かれるとか」
「それを見に行く」
「見聞を広められるのですか」
「そんなところじゃ、だからな」
「もう都にはですか」
「発つ」
はっきりとした言葉だった。
「明日にな」
「そうですか、ではまた都に来られたら」
「この店に来てじゃな」
「お豆腐をご馳走になって下さい」
「お武家様達は娘と女房の恩人です」
店の主人が言って来た。
「ですから勘定はいいです」
「いや、そういう訳にはいきませぬ」
「娘と女房を助けてもらったので」
「それはこの度だけのこと」
だからというのだ。
「ですから」
「次からはですか」
「豆腐を買わせてもらいます」
こう言うのだった。
「そうさせて頂きます」
「そうされますか」
「客として参ります」
これまたはっきりとした言葉だった。
「その様に」
「わかりました、それでは」
主人も幸村の言葉と心を見てだった、頷いた。
そしてだ、こう言ったのだった。
「ではまたいらして下さい」
「それではな」
幸村は主人に穏やかな笑みで応えた、そうしてだった。
主従は豆腐も酒も楽しんでだった、店の一家に
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