無垢の時代
山郷で迷う吸血姫
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村にいるのだろう。ひょっとしたら何日かも知れない。昔話のように何年も経ってしまっている事だって考えられる。もしもそうなら、もう帰れない。帰ったとしても、そこは私達が過ごした場所ではない。
(帰りたい!)
家じゃなくても。せめて車に。この村の――この村を出る?
(帰ら、なくっ…ちゃ……)
何でそんな事を考えたのだろう。そんな事よりも、早く家に帰らないと。早く帰らないと、お父様に怒られる。もうこんな時間だ。
「ちょっとすずか、どこに行くの?」
見知らぬ女性が急に声をかけてくる。
「どちら様ですか?」
こんな女の人、この村にいただろうか。違う。何かおかしい。この人は、私の――
「ちょっとすずか! こんな時に変な冗談はやめて!」
女の人が、声を荒げて近づいてくる。すずかって誰?――いえ、待って!――何か――
「こ、こないで!」
気持ち悪い。何か変だ。私は――私は!
「すずか!」
気づけば、全力で走っていた。身体が軽い。どこまでだって走っていけそうだ。これならすぐに帰れる。
(どこに?)
決まっている。私が生まれ育ったあのお屋敷――お屋敷。そう、お屋敷だ。帰る場所なんて決まっている。
4
何故あいつらはじっとしている事ができないのか。
残された不可解な書置きに、思わずこぼれたため息が白く浮かんで消える。
(集落があれば見落とす訳がないだろうが……)
手にした書置きには、近くの集落に買い出しに行く旨が記されていた。だが、そんなものが一体どこにある?――空から見た限り、この国の一般な感覚で歩いていける範囲に集落はなかった。無論、ここから見える景色が一変している訳でもない。相変わらず夜山の深い闇が辺りを埋め尽くしている。
『ひょっとして、狸や狐に化かされたんじゃねえか?』
傍らに浮かんだリブロムの笑い声に再びため息をついた。だとしたら笑い話にもなりはしない。まったく、義姉にしても義妹にしても、仮にも吸血鬼だろうに。
こんな事なら部品だけではなく、士郎本人を連れてくれば良かった。だが、呻いても三人が帰ってくる訳ではない。ひとまず、その集落とやらを探さなければならないだろう。だが、空からは見つけられなかった。ならば、歩いて探すより他にない。鬼火を一回り大きくし、辺りを照らしだす。残されていたであろう足跡は、深々と降り続ける雪に覆われ、とっくに消えている。だが、それでも近くの茂みに何者かが分け行ったと思しき痕跡を見つける事が出来た。それを伝い、崖を下る。行きついた先にあったのは――
「……助けた亀にでも連れられたか?」
『ここは海じゃねえぜ、相棒。まぁ、湖にも亀くらいいるだろうけどよ』
黒々とした水が静かに揺らぐ湖だった。降り立った先だけがちょっとした広さの湖岸となっているだけで、あとは
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