無垢の時代
山郷で迷う吸血姫
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「そんなはずはないんだけどね……」
歩いても歩いても村から出られない。それどころか、
「ねぇ、戻ってきちゃってるよ……?」
気づけば、あの修理店の前に戻ってきてしまった。ひょっとしたら、今までも同じところをグルグルと歩いていただけなのかも知れない。
「ああ。認めたくはないが、これはどうやら……」
「またおかしな事に巻き込まれちゃったみたいね」
気楽そうな言葉とは裏腹に、二人の表情には鋭い緊張が宿っていた。そこから先の行動については、酷くあっさりと決まった。元々何が起こっているか分からない。だから、その確認作業だったと言っても良いのかもしれない。
「戻ってきたな……」
「ええ」
件の修理店から、道が許す限り、とにかく真っ直ぐに歩き続けた。けれど、やはり気づけば元の場所に戻ってしまった。
「閉じ込められた、という事かしら?」
「だろうな」
初めから入り組んだ路地など歩いていない。村の大通りに沿って歩いていた。だから、この結果は予想していた。けれど、改めて突きつけられると怖くなる。
「迷い込んだが最後、出れない村、か。怪談話ならありそうなネタだがな」
「それに私達が巻き込まれてしまったんです、なんて笑い話にもならないわね」
姉の言葉には皮肉と自嘲が混ざっていた。私達というのは夜の一族という意味だろう。
「念のため訊くが、心当たりは?」
「こんなオカルトめいた真似ができる人は心当たりがないわね」
私達一族の特徴は人並み外れた回復力や身体能力であって、こんな魔法のような真似はできない。
「となると、これは光の領分かな」
本物の魔法使い。きっと彼なら何とかしてくれる。けれど、
「でも、電話は通じないよ?」
携帯は相変わらず圏外だった。これでは光に連絡を取ることもできない。
「……その辺の家に入ってみるか。運がよければ電話が使えるかもしれない」
近くの家の玄関を――古い横開きのドアを見つめ、恭也が呟いた。
「それしかないかしら」
ため息でもつくように、姉も呟く。
「誰かいて欲しいか?」
玄関のドアに手をかけた恭也が、冗談でも言うような口調で言った。
「ただの人間なら大歓迎なんだけど、ね」
私を抱き寄せながら、姉も同じような口調で返す。けれど、二人の表情は隠しきれない緊張があった。ドアを開けて、もし人以外の何かが出てきてしまったら――そんな恐怖に身体が竦む。きっと二人も同じ恐怖を感じているはずだ。それでも、
「いくぞ……」
覚悟を決めた様子で、恭也がドアを開く。ガララ、という音が辺りに響き――
「何事もないな」
「ええ」
その先に広がっていたのは、ごく普通の玄関だった。大小合わせて何足かの靴が並んでいる。さらにその先からははっきりと人の話し声が聞こえてくる。
「夜分遅くにす
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