無垢の時代
山郷で迷う吸血姫
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気味の悪さが少し薄らいだように思えた。
「さ、早く修理店を探しましょう?」
歩き出した姉の後を追って歩き出す。
もう夜も遅い事もあって、村に人影は見られなかった。暗い夜道に寂れた街灯がポツポツと灯っている。どうやら雪は止んだらしい。というより、
「何か暑くないか?」
上着の前を開けながら、恭也が言った。
「そうね。人里だからかしら?」
「それにも限度ってものがあるだろ? これじゃ春先か秋口か……。とにかく真冬の気温じゃないぞ」
そう。村に入ってからというもの、妙に暑かった。ついさっきまで雪が降っていたはずなのに、今はまるでそんな様子が見られない。
「……まるで季節がずれちゃったみたい」
この村だけ時間の流れが違う。そんな錯覚を覚えた。いや、錯覚ではないのかも知れない。少なくとも、今感じている気温は錯覚ではない。
「すずかまで気味の悪いこと言わないでよ」
口ではそう言いながら、姉もコートの前を開けた。私もそれに倣う。篭っていた熱が逃げていき、少しだけホッとする。
「早く部品を買って帰ろう」
「そうね」
恭也の言葉に頷くと、そこからはみんな早足に先を急ぐ。とはいえ、姉にも恭也にも土地勘などない。もちろん、私だって同じだ。結局、勘だけを頼りに見知らぬ村の中を彷徨うことになった。具体的な時間は分からないけれど、決して短くはない時間歩いたと思う。けれど、その間に人はもちろん、野良猫一匹見かける事はなかった。相変わらず、誰かがいる気配だけが伝わってくる。
「やっと見つかったな」
「そうね。ちょっと、部品があるか心配だけど……」
ようやく見つけたのは、錆が浮き、塗装が所々剥がれた看板を掲げた自動車の修理店だった。看板の文字も掠れていて、近くに街灯がなければ見落としていただろう。
「すみませーん! 近くの道で車が壊れて困ってるんです。誰かいませんかー?」
店はすでに明かりが落とされ、誰もいる様子はない。姉も店というより、明かりの灯った母屋に向かって声を上げていた。けれど、誰も出てこない。恭也が母屋の方の呼び鈴を押したけれど、やはり結果は同じだった。
「無視されてる、のか?」
「多分、ね。留守してる訳じゃなさそうだし……」
本当にそうなのだろうか。胸の中に浮かんだ不安を言葉にする事はどうしてもできなかった。言葉にしてしまえば、その不安が現実になってしまいそうな気がしたから。
「他の店を探してみるか?」
「いいえ。そろそろ光君も戻ってくるでしょうし、車まで帰りましょう」
「そうだな」
姉の言葉にホッとした。今は少しでも早くこの村から離れたかった。ひょっとしたら、姉も恭也も同じ思いだったのかもしれない。店を探していた時と同じように、足早に来た道を引き返す。ところが、
「おかしいな。道を間違えたか?」
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