無垢の時代
山郷で迷う吸血姫
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雲泥の差だ。正直に言えば――久しぶりに退屈せずに済みそうな相手だった。無論、かつての自分が有する膨大な戦闘経験の中で言えば、お世辞にも強敵とは言えない――が、決して雑魚でもない。血が騒ぐ。追体験の中とはまた異なる緊張と興奮。存分に力を振るえる事への快感。それに、義妹に手を出された事への怒り。全てが練り合わさって、身体を突き抜ける。その感覚を堪能する余裕はある。だが、そればかりに気を取られてはいられない。何せ背後には三人も庇わなければならない相手がいるのだから。
「戦乙女の剣閃よ!」
七つの雷刃が魔物の身体へ直撃した。まずまずの感触だ。
返礼は左の大鎌だった。ずんっ!――と、空気を断ち切る音。断ち切るというよりは、引き裂くか。直撃を許せば、人肉のタタキができそうだ。心臓が跳ねる。恐怖ではない。久方ぶりの興奮だった。魔法使いとしての宿業が上げる歓喜の声だ。轟!――と、練り上げた魔力が吼える。
「雷樹よ!」
三叉に分かれた雷撃波が、その魔物を貫く――が、それを無視して、右の大鎌が振るわれる。そうでなければ面白くない。身を屈めながら、さらに魔力を練り上げる。
「剣魔女の斬撃を!」
二振りの妖刀が顕在する。それに記録された業が、瞬時に身体中に――細胞の一つ一つに行き渡り、刃は滑らかに魔物の肉体へと滑り込んだ。だが、浅い。致命傷には程遠い。魔物が放つ技も何もない力任せの前蹴りが大気をかき混ぜた。さらに、両腕が力任せに振り下ろされる。人間一人を殺すには過剰すぎるほどの破壊力だ――が、当たらなければどうということもない。
「雷布よ」
魔物の足元を変性させ――さらに魔力による超加速で、敵の間合いからすり抜ける。
「精霊よ」
それと同時、地面に異形の心臓を叩きつける。半身を地面にめり込ませたままの巨人像が魔物の横面に拳を打ち込むと、魔物の巨体が面白いほどぐらついた。巨人像がさらに拳を振るう。下から上に振り上げるような一撃。魔物の巨体がわずかに宙に浮いた。そのまま尻餅をつく魔物に、さらに雷撃波を叩き込む。
(そろそろ詰み、か……?)
まさかそう都合良くはいかない。確信と共に、重心を整える。どんな反撃がくるか――警戒を怠ったつもりはなかった。それ以前に、予想して然るべきだった。だが、反応が遅れた。ギロリと魔物の目が蠢き、俺の背後を見据えた。
「あああああああっ!?」
苦しげな声をあげたのはすずかだった。視線だけ振り向くと、彼女はガクガクと身体を痙攣させている。その隣で、忍も――恭也までもが、頭を抱えて呻いている。
「二人とも、気を確かに持て……ッ!」
苦しげに恭也が言う。だが、目に見えて傷を負っている様子はない。これは――
『ヤベえぞ相棒!』
分かっている。精神支配とでもいえばいいだろうか。今、三人が受けているのはそういっ
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