無垢の時代
山郷で迷う吸血姫
[16/25]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初
初めてその大きさに気付いたのではないだろうか。それとも、第二の故郷と呼べる場所を見つけ出せたのだろうか。分からない。そこまでの『記憶』は伝わってこない。当然だった。
「生まれ育った場所がなくなるかどうかなんだ。それは熾烈だっただろうさ」
正義。宗教。そして、故郷。この三つは、有史以来最も多くの血を啜ってきた言葉だろう。この村も、その例外になる事は叶わなかった。そう。例外ではないのだ。
「そんな中で、一つの事件が起こる」
「事件だと?」
「ああ。村の子どもが何者かに殺されたんだ」
それが惨劇の始まりだった。そして、この村の本当の意味での終焉の始まりでもある。
「この村にとってすれば、それだけでも大事件だった。そして、その子どもの家が、いわゆる反対派だった事が事態をさらに複雑にさせた」
「賛成派の犯行だと思われた?」
「そういうことだ。それから、立てつづけに三人の子どもが殺された。全員が、反対派の家の娘だった。反対派の住民達が抱く、賛成派に対する悪感情が憎悪に変化するまで、それほどの時間は必要なかったようだな」
肩をすくめてから、取りあえずの結論を口にする。
「『曾根田幸恵』はその中の一人さ。この『村』にとって、彼女は初めから死亡する事が決まっていた。だから、死亡してから蘇生すれば、あるいはその役から解放されるんじゃないかと考えたんだ」
結果として、その予想は当を得ていた訳だ。だが、恭也と忍――おそらくは『曾根田太郎』と『曾根田幸代』がどうなったかは分からない。それこそ、最悪は本当に乗っ取られる可能性も否定できないのだ。
「なるほど、な……。すずかの件については分かった」
恭也は頷いてから、いよいよ本題について触れてきた。
「それで、この村からは出られるのか?」
「さてな。それはこれから試すところだ」
肩をすくめてみせると、すずかが泣きそうな顔をした。気が咎めたが、確証がある訳でもない。これから試す事が不発に終わったら、それこそ大騒ぎだ。それに、
「試す前に、武器になりそうなものを見つけておいた方が良いな。役に立つかは分からないが、ないよりはマシだろうさ」
幸いここは農村だ。武器の代わりになりそうなものの一つや二つ手に入るだろう。
「武器、か。となると、何か物騒な事をするつもりだな?」
咎めるように恭也が俺を見た。だが、それはこちらの台詞だ。つくづく思うが、どうしてこの二人の逢瀬には平穏と言う言葉がないのだろう。そもそも初めて逢瀬に付き合わされた時は半端者の吸血鬼どもと取っ組みあう羽目になった。それは時には刺激も必要だろうが、この二人の場合明らかに過剰ではないだろうか。
(あまり刺激が過ぎるとそのうち不感症になるぞ?)
幼い義妹の手前、声には出さず毒づく。
「なら、適当な倉庫でも探そう」
「そう
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ