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その魂に祝福を
無垢の時代
山郷で迷う吸血姫
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。その前に、村長の娘――『曾根田幸恵』の家族構成について簡単に説明しておこう。両親に兄二人、姉一人。彼女は末っ子だったらしいな」
「それがどうかしたの?」
「すずかは――と言うより、『曾根田幸恵』は俺に向かって次郎お兄さまと言った。途端に、『曾根田次郎』という人間の経歴が……記憶が流れ込んできた」
「待て。幸恵と次郎って言ったか?」
 そこで恭也が驚いたような声をあげた。
「その名前、覚えがあるな。……そうだ。お前を見つけた時だ」
 また次郎が幸恵を虐めている――怒りと共にそう思ったと恭也は言った。だから、ついカッとなって……気付いた時にはすでに殴りかかっていた。その一撃をかわされて、初めて目の前の人間が誰か気付いたと。
「それなら、私も」
 すると、忍までがそう言って頷き始めた。なるほど、やはりそういう配役か。頭数は合うが……しかし、敵は見た目に騙されたらしい。あるいは見た目を優先しただけだけかもしれないが。
「危ないところだったな」
 言ってやると、今さらになって二人とも緊張した顔をした。
「あまり意識するな。意識すると、余計につけ込まれる。自分が何者か忘れるなよ」
「あ、ああ。分かった」
「あ、でも。万一の時は私達もその実で助けてくれるわよね?」
「それはもちろんだが……。黄泉の実が効果を発揮するかは保証しかねるぞ」
「え? 良く分からないけれど、私はその魔法で助けてくれたんでしょ?」
「すずかの場合はな」
 詳しく説明するのは気がひけたが、かと言ってあまりあてにされても困る。それに、この魔境から抜け出すためには、その情報を共有していた方が都合がいいのも事実だ。
「『今』から数年後、この村は消滅する。下流にダムが建築され、その湖底に沈むんだ」
「……それが、俺達にその実の効果が及ばないかもしれない事とどう関係するんだ?」
「その計画が発表されてから、この村の住民は賛成派と反対派に分かれ、村の存亡をかけて対立する事になる。それまでは顔見知り以上、身内未満だった相手同士でな」
「……きっと熾烈なものだったんでしょうね」
 神妙な顔で忍が頷いた。実際に熾烈な争いだったらしい。『曾根田次郎』の記憶を辿る限り、そうとしか言いようがない。熾烈であると同時に、結果の見えている戦いでもあった。ダム建設ともなれば、その計画には莫大な金が動く。表でも裏でも、だ。表の権力と裏の権力の双方が、この憐れな村に牙をむいたのだ。だが、それでも。結果の見えたその争いを愚かだと嗤う者がいるのなら……ソイツこそが本当の愚か者だ。離れてみて――帰れなくなって初めて故郷というのが自分の中で大きな部分を占めていたのだと分かる。そして、第二の故郷と呼べるべき場所を得られた自分は幸運だという事も。
(『曾根田次郎』はどうだったんだろうな?)
 喪って
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