無垢の時代
山郷で迷う吸血姫
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以上の一撃に舌を巻きながら、すずかの身体を地面に寝かせると同時、その場を飛び退く。彼女の身体に当たらないギリギリを掠めて鋭い蹴りが空を裂く。乱された大気が風となって巻く頃には、俺も立ち上がり身構えていた。目前には、恭也と忍に見える人間が立っていた。男の方に間合いを詰め、拳を放つ。狙いは横腹。腹筋の隙間を狙った――が、わざわざ紙一重のところまで引きつけてから避けられた。肘が伸びきる直前、下半身を強引に捻り、拳鎚として横薙ぎに薙ぎ払う。強引な一撃は当たりこそしたが、鍛えられた腹筋を打ち抜く事はできなかった。男の手がこちらの手首を掴む。関節を決められる前に肘を曲げ、身体の方を腕に引き寄せる。と同時、左の貫手で相手の眼球を狙う。だが、それも軽く逸らされた。関節を極めてへし折るための時間を防御に回されたからだった。それどころか、眼球を貫くための威力まで利用され、片手でぶん投げられる始末だ。上下が反転する視界の中で魔力を練り上げる。
「翼膜よ!」
身体が実体を失い闇となって流れる感覚。ほんの一瞬消失した視界が、さらに上下反転して回復する。正常に戻っただけだが、それでも僅かに感覚が混乱した。それでも身体は全身のばねを活かし、完全な形で着地する。同時、たわんだばねを爆発させ一気に間合いを詰める。会心の踏み込み。大地から受け取った力が拳の先端へと突きぬけていく。相手は投げ終わった姿勢のまま固まっている。――はずだった。視界が上下に回転する。その男はこちらの拳を身体に巻きつけるように受け流し、そのまま背負い投げに繋いだらしい。気付いた時には地面に寝転がっていた。叩きつけられる前に加減されたらしく、どうという痛痒も感じない。それが、現実感の欠如に繋がった。やれやれ。まったく、まるで魔法でも使われたような気分だ。
「……それで、お前は高町光でいいのか?」
こちらの腕を掴んだまま見下ろし、その男が言った。
「……その出鱈目さは高町恭也で間違いなさそうだな」
お互い半眼で見やり、取りあえずお互いに本人らしいと納得する。
「……あなた達は、どうしてもう少し平和裏に確かめようと思わないの?」
少し遅れて、義姉が呻いた。どうしてと言われても、これが一番手っ取り早いからだとしか言いようがない訳だが。
「すずか、どうしたんだ?」
地面に転がされたまま微動だにしない義妹に、恭也が怪訝そうな顔をした。だが、反応はない。まだ効果は持続していたらしい。
「え? ちょっとすずか! しっかりして!」
抱きあげた忍が悲鳴を上げた。まぁ、それはそうだろう。何せ今なら瞳孔も開き切っているはずだ。
「光君!」
「落ち着け。もうじき蘇生する」
「蘇生って……」
「樹木変性系の魔法の中に、黄泉の実というものがある。こいつには人間を一時的に仮死状態にする効果があるんだ」
「仮
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