無垢の時代
山郷で迷う吸血姫
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のだ。
(村としては、何処にでもありそうな農村だったらしいな。住民は皆顔見知り。出掛けるのに鍵をかける必要もない、と、大体そんなところか)
大雑把に言えば、昔ながらの村落だということだ。実際、大通りから少し外れれば、畑や田んぼばかりが目に映る。項垂れた稲穂から考えて、季節は大体秋口程度だろうか。
(『曾根田幸恵』は、村長の娘。両親と兄二人、姉一人。兄妹仲は……まぁ、長男と姉とは仲がいいようだな)
次男については、言葉を濁し……あまり話したがらない様子だったが。
「次郎お兄さまはこの村が嫌いなんですか?」
――攻撃は思いもよらない形で訪れた。意識が……『御神光』という概念そのものを直接鈍器で殴られたような衝撃。まるで生贄にした時の意識の流入だ。聞いていない『曾根田次郎』の経歴が、『御神光』を覆い隠そうとする。もっとも、魔法使いの意識を排除できるほどではない。それに、
(上書きではない事に感謝すべきだな)
今俺達が曝されている危険の質は分かった。残された問題はどう対処すべきか。どうすれば、『曾根田幸恵』から月村すずかを奪い返す事が出来るかだった。そのためにも、敵の正体を見定める必要がある。自分を見失わないよう細心の注意を払いながら、流れ込んでくる情報に耳を傾ける。『奴ら』の知恵を汲み出すのと理屈は同じだ。
(『曾根田次郎』は……所謂ドラ息子だ。閉鎖的な家を……この村を嫌い、ダム計画にも早くから賛成していた。そして――)
おそらく重要であろう情報が流れ込んできた。それは危険の先触れであり……起死回生の切り札にもなる。そこまで分かれば充分だった。
「幸恵。ちょっと目ェつぶれ。良いと言うまであけんな」
こんな声色ですずかに声をかける日が来るとは思わなかったが……努めて『曾根田次郎』の口調を真似て、告げる。
「う、うん……」
多少怯えた様子で、すずかが目を閉じた。その隙に魔力を練り上げ、とある魔樹を生みだした。その果実をもぎ取り、魔力を抽出する。そして、その魔力をすずかに放った。
「―――」
悲鳴は上がらなかった。目を閉じたまま、一瞬身体を痙攣させ――そのまま地面へと倒れ込む。身体が地面に叩きつけられる前に抱きとめる。呼吸は止まっていた。心臓も、もはや動いていない。どういう生命活動も行われていない。
「これで、どうだ……?」
結果が出るまで、もう少し時間がかかりそうだったが――どうやら、その前にもう一つやらなければならない事が出来たらしい。
「一つ確認するが、お前達は誰だ?」
振り返ることなく問いかける。返答は軽い踏み込みの音だった。その軽さは、しかし危険なものだった。その静かさは死の静かさだ。すずかを抱えたまま前方に身を投げ出す。地面を転がる最中、延髄を打ち貫くように振るわれた拳が空を切るのが分かった。思った
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