無垢の時代
山郷で迷う吸血姫
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で組みつき宥めるなど、とてもできたものではない。いやはや、何の訓練も受けずこれ程とは。仮にも歴戦の魔法使いとしての――あるいは単純に男としての矜持に傷がついた気もしたが、それはともかく。
「すずか。忍と恭也はどうしたんだ?」
地面に転がったすずかはすっかり怯えきった様子でこちらを見てくる。問いかけるが、怯え震えるばかりでまるで返事がない。恭也達に何かあったのか――とも考えたが、
『オイ、相棒……』
リブロムを見て、さらにすずかが悲鳴を上げた。立ち上がる事もなく、這いずって後ろに下がる。まるで初めて見たかのように。ふと閃いたものがあった。
「驚かせて済まない」
片膝をつき、視線の高さを合わせてから、なるべく優しい声で……それこそ、なのはに初めて声をかけた時のような気分で、その少女に問いかける。
「君の名前は?」
「曽根田幸恵……」
思った通り、と言うべきか。どうやら目の前の少女は月村すずかではないらしい。やれやれ、どうやら面倒な事になったようだ。こみあげてくるため息と、背筋を強張らせる緊張感、そして、腸を捩じる怒り。その全てを腹に収め、作った微笑を保ち続ける。
「幸恵ちゃん、か。俺は御神光」
御神姓で名乗ったのは、単純に意識が魔法使いとしてのそれに切り替わっていたからだった。特別意識していた訳ではない。口にしてから、自分で驚いたくらいだ。
「こっちはリブロム。顔と人相は悪いが、中身はそう悪い奴じゃあない」
苦笑の一つも引き出せれば良かったが、なかなか手強い。それでも、すぐさま逃げようという気配は見られない。単純にその気力がないだけなのかもしれないが。
「ここはなんて村なんだ?」
特別意識した訳ではない。間を繋ぎたかっただけ、というのが本音だった。
「稲谷村……」
どうやらそういう名前の村らしい。図らずも知る事になった村の名前を記憶の片隅に留めておく。
「もう大分遅い時間だが、君は一体どうしたのかな?」
もっとも、この村の『夜』が明けるかどうかは知らないが。漠然とした感覚から言えば、明けないように思える。現実として、ダム湖に沈んでいるとするなら、この村は所詮泡沫の夢に過ぎないのだから。
「……これからお屋敷に帰るところです」
それが月村邸ではないことは明白だった。しかし、端的にこの少女が月村すずかである事は疑いない。では何故月村すずかは自らの事をその何某という娘だと思い込んでいるのか。それが分かれば、今自分達がどのような危険に曝されているかの手がかりになる。
「なるほど。良い村だな」
「はい!」
ともあれ。それから、何とか彼女を『お屋敷』まで送っていける事になった。その道中、色々な事を話してもらった。もっとも、特別込み入った話ではない。普段の村の様子や、『曾根田幸恵』の簡単な家族構成くらいなも
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