暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
解かれる結び目 9
[4/5]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
なんだ。
 拠り所が無い旅へ、たった一人で送り出された、幼い少年。

 覚悟があったって、怖くない筈がない。
 寂しくないわけ、ないじゃない。
 私が神殿で神々に護られ、人間達に愛されてぬくぬくと育っている間に。
 この人は、どれだけの傷を負ってきたの?
 それをずっと、こんな風に隠してきたの?

 ……一人で、泣いてきたの……?

「私を……私を護ってください、アルフ」

 アルフリードの前に立って、地面に両膝を突き。
 木陰にあってなお陽光のように眩しい金色の頭を、そっと胸に抱える。

 私はこの時、他に言葉を見つけられなかった。
 本当は言葉なんて要らなかったのかも知れない。
 でも、何かを言わずにはいられなかった。

 初めて見る世界で。
 初めて見るアルフリードの弱い姿が、怖いくらいに頼りなくて。
 そよ風に揺れる灯火よりも(はかな)く見えて。今にも消えてしまいそうで。
 だから、繋ぎ留めておきたかった。
 ()()()()()()()()()()()()()、なんて、深く考えもせずに。

「私が貴方の帰る場所になります。だから、貴方が笑っていられるように。貴方が迷わず帰ってこられるように。私を護ってください、アルフリード」

 この人を護りたい。
 笑顔一つで自分の世界を護ろうとしている、強くて弱いこの人を。
 護りたい。
 護りたいと、強く思った。

「……なんか、求愛されてるみたい」
「! ち、違います! そんなつもりは……っ!!」

 慌てて離れる私の手を取り。
 甲に唇を軽く押し当てた彼はもう、いつものアルフリードだった。
 いつの間に(ぬぐ)ったのか、頬を伝い落ちた涙の筋は消えて。
 赤みを帯びた(だいだい)色の目を緩く細めて、彼は微笑んだ。

「護るよ。俺が触れた物、心。俺の手が届く限りの、すべてを。……君も。必ず護り抜くと、神々に誓おう」

 実直で。愚直で。
 自分にも他人にも厳しくて、優しい人。
 きっと、どこの誰よりも強い人。

 だけど、指先で簡単に割れてしまう薄ら氷のような(もろ)さを隠してる。
 その危うさに気付いたから、コーネリア達も彼を放っておけなかった。
 『アホリード』は、弱い彼に与えられた、二人なりの激励(げきれい)抱擁(ほうよう)の意味を込めた愛称だったんだ。

「はい。護ってください。貴方の世界を」

 私はさすがにアホリードとは呼べなかったけど。
 アルフリードの傍で、彼の支えになれればと思った。
 これ以上、この人を悲しませてはいけない。苦しませてはいけない。
 彼の隣に立って、彼を傷付けるもの
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ