暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
解かれる結び目 9
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れ掛け、三人は黙々と遺体を埋葬していた。
 その中で一人だけ。折り重なる二人に包まれ、辛うじて命を繋いでいる幼い子供が見付かった。
 けれど、僅かな隙間から覗くその顔は憔悴し切っていて。固まって貼り付いた……子供の両親であろう二人を無理矢理引き離して引っ張り出した小さな体には、殆ど意識が無かった。
 髪先は焦げ、衣服で護られていない皮膚の所々が変色して異常に膨れ上がり、手足に水疱を作って。
 それでも生きていた小さな命を、アルフリードは
 「頑張ったね。よく頑張った。もう大丈夫だからね」
 そう言って(しばら)くの間笑顔で、額に額を重ねて……看取った。
 いつもはふざけてるウェルスも、こういう時ばかりは静かに唇を噛んで目蓋を伏せていた。流れ落ちたりしなくても、その目を濡らす物が確かにあった事を、私達は知ってる。
 だから。
 立ち上がったアルフリードの一言が、信じられなかった。
 「ちょっと所用してくる。これも始末しといて」
 「…………ッ!?」
 私がまともに直視できない子供の凄惨な姿を見て触れたアルフリードが。
 たった今まで笑顔を注いでいた相手を指して「これ」と呼び。
 いつもと変わらない笑顔で、「始末」してと言った。
 自分の目と耳を疑ったわ。私が少し距離を置いた場所に座ってるから、聞き違えたか見間違えたんじゃないかって。
 でも
 「ああ。漏らすなよ。汚いから」
 ウェルスが普通に答えて。
 「失礼な奴だな。当然だろ」
 アルフリードもさらっと笑顔を返して、いつもと変わらない歩調で無事な木々の間に姿を潜らせた。
 いつもと変わらない。
 本当に、神殿で出逢った時と何一つ変わらない笑顔と仕草で。
 「え、あ! マリア!?」
 アルフリードは笑顔が良いと言っていた。いつだって笑ってるほうが良いと。
 だけど、こんな時にまで朗らかに、爽やかに笑うの? 命が失われた瞬間にまで笑って、死んだら物のように扱うの!?
 そんなのってない!! おかしいわよ!!
 私はアルフリードへの気持ち悪さと怒りを胸に抱えて、彼の後を追い掛けた。吐き気で目の前が不自然に揺れていたけど、それよりも彼に言いたかった。
 貴方はおかしい。狂ってると。
 「アルフリード!」
 私に背を向ける形で立っていた彼は、声に驚いて振り返り……気が抜ける笑顔で
 「…………あーあ。所用だって言ったのに」
 一粒だけ。
 頬に雫を伝わせた。
 「アル、フ……?」
 「本当にしてたらどうするんだよ。恥ずかしいじゃないか」
 彼の横に生えていた木へ背中を預けて、ずるずると擦り付けながら地面に座り込む。その姿に、いつもと同じものは……無かった。
 「これ扱いが気になった? うん、ごめん。酷いとは思うんだけど、割り切らないと頭が付い
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