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真田十勇士
巻ノ十三 豆腐屋の娘その一

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                 巻ノ十三  豆腐屋の娘
 一行はこの日もだった、都を見物していた。その間銭を稼ぐのも忘れていない。
 この日は午前中に銭を稼いだ、幸村はこの日も講釈をしていた。この日の講釈はというと。
「へえ、平妖伝か」
「そうした話もあるんだな」
「はじめて聞いたが面白いな」
「あれは昨日の若いお武家さんじゃないか」
「水滸伝を話していた」
 幸村を知っている者もいた。
「相変わらず喋りが上手だね」
「わかりやすいし抑揚も聞いている」
「人を引き込ませる声だよ」
「声もいいし」
「最高の講釈だね」
 芸を見慣れ聞き慣れている昨今の都の者達も唸る程である。
「このお武家さんやるね」
「気品もあるしね」
「只の浪人じゃないね」
「一体どういう人か気になるところだよ」
「面白いお武家さんだよ」
 こうしたことも話しながらだ、彼等は幸村の話を聞いてだった。
 彼が用意しているザルに銭を置いていった、銭は瞬く間にザルから溢れ返るが。
 講釈が終わってだ、すぐにだった。
 一旦宿に返る途中に今度は柄の悪い者達に囲まれている若い娘を見た、それですぐに男達に対して問うた。
「待て、何をしている」
「何をってこの娘を買い受けるんだよ」
「親の借金のかたにな」
「それで後はわかるだろ」
「そうか」
 その話を聞いてだ、幸村はまずは頷いた。
 そしてそのうえでだ、こう男達に問うた。
「この娘の親御は借金があるのだな」
「ああ、わし等にな」
「そのこともわかるだろ」
「だからわし等は借金のかたで貰ったんだよ」
「この娘をな」
「では借金のかたとなる銭があればか」 
 幸村は男達の言葉を受けて述べた。
「娘を売ることはないな」
「当たり前だろ、そんなの」
「わし等は借金のかたが欲しいんだよ」
「銭があれば文句はないさ」
「この娘にも手出しするか」
「わかった、では借金はどれだけか」
 幸村は男達に今度は借金のことを尋ねた。
「どれ位になる」
「これだけじゃ」
「これだけになる」
 男達は幸村にその借金の額を話した、すると。
 幸村は自分の懐の中の銭を見てだ、そして言った。
「足りるな、ではな」
 そう見たらすぐにだ、彼は。
 その右手をさっと挙げた、するとだった。
 十人の家臣達がすぐに幸村のところに来てだ、彼に問うた。
「殿、お呼びでしょうか」
「何かありましたか」
「うむ、実はこちらの娘御がだ」
 幸村はその彼等に話した。
「借金のかたで売られそうになっているのだ」
「それで、ですな」
「この娘御を助けたい」
「それで、ですな」
「銭が必要なのですな」
「そうじゃ、しかし拙者が持っているだけではな」
 その銭だけではというのだ。
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