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SNOW ROSE
間章 I
枯れ葉舞う頃に
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美味しかった…。春の陽射しが心地よく、お前達の心遣いが嬉しかった…。とても楽しく、素晴らしい人生だったよ…。」
 エリスは微笑みながら思い出を紐解いていた。
 エリスを囲んでいる人々は、彼女の言葉を胸に留めておくかのように黙っていた。

 ふと、その時…。

「約束を果たしに来たよ。」
 エリスの耳元で誰かが囁いたのである。
 エリスは驚いて聞き返した。
「約束…?」
 周りに集まっていた人々は、ポツリと囁いたエリスの言葉に首を傾げている。
 どうやら聞こえてはいない様子であった。
 エリスはその人々の反応を前に、何とはなしに理解出来たのであった。

「エフィ…あなたなんだね…。」

 エリスはそう呟くと、晩秋の黄昏の中で静かに息を引き取った。
 それはまるで眠るように…。


   †  †  †


「エリス…!」
 男性が彼女の名を呼んだ。
 エリスはその声に聞き覚えがあり、慌てて振り返ったのであった。
「ジェフリー…!」
 信じられなかった。もう逢えないと分かっていながらも、心から求めていた愛しい人が目の前にいたのだから。
 エリスの瞳から涙が溢れ出た。
「君を一人にしてしまって…すまなかったね…。」
「あぁ、ジェフリー。どんなに逢いたかったか…!あなたが死んだとき、どんなに苦しく辛かったか…!」
 そう言うと、エリスはジェフリーの胸の中に飛び込んだ。
 その胸の中は温かく、太陽の陽射しよりも心地良かった。
「もう…どこにも行かないで。ずっと傍にいて…。」
「ああ、もうどこにも行かないよ。ずっと…ずっと一緒だよ…。」
 ジェフリーはエリスを強く抱き締めたのであった。

 二人の傍らにはエフィーリアの姿があったが、何も言わずただ、優しく微笑んでいた。


   †  †  †


 エリスが亡くなった時、周囲の人々は悲しみに沈んだ。
 彼女の苦労した歳月を振り替えって見ても、この一年足らずの幸せではあまりにも少ないではないかと…。
 しかし、そんな涙に暮れる人々の上に、驚くべきことが起きたのである。
「これは…!」
 そこにはエリスの亡骸を祝福するかのごとく、白き花弁がいずこともなく舞い降りてきていたのである。
 それを見るや、エリスの友人であった一人の老爺が言った。
「奇跡じゃ…。高き御方が奇跡を齎されたんじゃ!あぁ、やっと逢えたんじゃのぅ…。」
 そう言って涙を流しながら微笑んだという…。



 残念なことに、この物語はここまでしか伝わっていない。
 この物語はクリストフ・ヴァールの手により書かれてはいるが、断片でしか残されておらず、その手稿以外には伝えられていないのである
 今でもフレーテと言う名の村はあるが、この物語に登場する村とは
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