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SNOW ROSE
間章 I
枯れ葉舞う頃に
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…。

 暫らくは二人とも、暮れゆく茜空を眺めていた。
 空はもう星が瞬き始めており、紅から藍のグラデーションが美しかった。
「カールや、もしその御方だったとしたら、どうして私なんかのとこへ姿をお見せになったんだろうねぇ…。」
 エリスはふとカールに問ってみた。
 カールは問われて伯母を見たが、エリスはただ、名残惜しげに沈み切らぬ太陽を見つめているだけであった。
「そうだね…。でも、こうも言われてるんだよ。幸福にならなければならない人が不幸に晒されていると、女神はその愛ゆえに幸福を齎す…ってね。」
 カールは俯いてそう語った。
 この伯母が、どれほど大変な人生を歩んで来たのかを知っているからであった。
 しかし、エリスは甥のその言葉を聞くや立ち上がり、ニッコリと笑った。
「そうなのかい。こんな歳んなってどんな幸福が来るか分かんないけどねぇ。それを信じてみるのもいいかねぇ。」
 天を仰いでそう言うや、カールに「さ、帰ろうかね。」と言って歩き出した。
「待ってよ伯母さん!」
 カールも立ち上がり、先に行く伯母の後に続いたのであった。

 空には数多の星々が瞬き始め、辺りには夜の気配が近づいて来ていた。


 時は過ぎ春の初めにカールは結婚し、正式に館の主人となった。
 家族が増えたことでエリスは今までよりも明るくなり、よく三人で街に出掛けることも多くなった。
 カールは仕事も順調で、妻のミモザはエリスを楽しませてくれた。
 夏にはミモザが身籠ったことが分かると、カールとエリスは飛び上がるほど喜んだ。

 エリスにとって、三人で暮らす毎日はとても幸せだった。本当に…。

 しかし、その年の初秋にエリスは突然倒れてしまい、そのまま寝たきりの状態へ陥ってしまったのである。
「さて、そろそろ舞台から降りる頃かねぇ…。」
 窓の外を見ると、紅や黄に染まった木の葉があの時のように舞い落ちている。
 部屋にはエリスを囲むように家族や友人達が集まっていた。
 カール夫妻は勿論、エリスの妹レジーナと夫のカルロ、その娘マリーアに友人達が七人来ていた。
 その中で、カールは心配そうに伯母に語りかけた。
「エリス伯母さん、何言ってるのさ。ミモザのお腹には赤ちゃんだっているんだ。また家族が増えるんだよ?まだまだ生きなきゃ。しっかりして。」
 その甥の言葉を聞いてエリスは微笑んだが、エリス自身はもう終わりが近いことを知っていた。
「できればねぇ…孫の顔も見たかったけど…。寿命というのは、どうにもならんもんさね…。」
 浅い溜め息を吐き、エリスは窓の外へ目を向けた。
 そこではやけに紅い夕日の輝きが、枯れゆく木々に深い陰影を創りだしている。
「こんな晴れた空の下で、よくお茶を頂いたねぇ…。ミモザの作ってくれたスコーンが
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