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逆さの砂時計
解かれる結び目 6
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りに人影が無いのを確認して、中庭の植物園に走り込む。
 建物の外側は侵入者への警戒が厳しいから、廊下と正面入り口は使えない。神殿に入るなら礼拝堂の祭壇裏に直通している中庭側の中央口。パッと見では判り難い場所にあるし、扉には常に鍵が掛かってる。その鍵は私しか持ってないし、騎士も配置されてない。暗闇に紛れていれば気付かれないわ……多分。
 空が刻々と落ち着いた色調に変化していく。できるだけ噴水寄りに素早く細かい移動を続けて……
 「駄目だよ、マリア」
 「!?」
 エルンスト? どうして扉の前に立って……
 「君は女神として此処に来たの? それとも、女性として?」
 ……女性として?
 「意味が解らないわ。私はただ」
 「駄目だよ。君は人間に関わるべきじゃない。屋敷へ戻って」
 ……私が神殿に来た目的を知ってる?
 私が此処に来ると分かってて見張ってたの?
 何故?
 「お願い、エルンスト。私はただ、あの人達の話を聴きたいだけなの」
 「聴いて、それで? どうするの?」
 「どうって……」
 「一緒に行きたい?」
 え?
 「彼等と一緒に、神殿を出て行きたい?」
 ……そんな事、考えてなかった。
 ただ、もっと詳しくあの人達の話を聴けたら、神々に何を告げられても頑張れる勇気を貰える気がして……それだけのつもりで……。
 「おいで、マリア」
 「え? 待って、エルン……」
 「来るんだ」
 何? 掴まれて引っ張られる手首が凄く痛い。
 神殿への入り口を護る廊下の護衛騎士に畏まられながら中庭を連れ出され、林に入って屋敷方向に歩いて行く。
 ……何故、廊下を使わないの?
 硬い表情のエルンストが半ば強引に私を引き摺って辿り着いたのは、誰も居ない裏門。閉ざされた扉に背中を押し付けられ、正面からエルンストの体が覆い被さって私の動きを封じる。
 「エルンスト?」
 「僕は、君の伴侶候補だ」
 「……え?」
 伴…… 何?
 「神官と騎士の総会議で、何年も前に決められていた。君が人間の法律で正式に結婚できる年齢になるまで伏せていようとも決まってたけど」
 「……うそ……」
 見上げた双眸が、すっかり暗くなった空の中で青く光る。
 浮かぶのは自嘲めいた微笑み。
 「不思議に思わなかった? 君と頻繁に会ってる僕が、何の戒めも受けてない事。確かに人前では極力敬語を心掛けていたけど、僕は神殿騎士として特別な階級を貰ってる訳じゃない。普通に考えて、君の傍に居る事から不自然なんだよ」
 「それは、私の幼馴染みで友達だから……」
 女神である私が、貴方の傍に居たいと願ったから。
 「うん。僕が正式な伴侶候補に選ばれた理由もその辺りにあると思う。でも、僕が候補に名乗りを挙げなければ、君の願いであっても通らなかったよ
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