星の瞬きは未だ届くことなく
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いたからな」
苦悶の表情で呟いた黒髪の彼女――愛紗に、蒼い髪を揺らして彼女は苦笑を零した。
「くく……そうか。まあ、あんな夢を見れば名も呼んでしまうか」
心の中にだけ切り取られた笑い声が耳に響く。からから、からからと。
気温の高さから額に滲む汗を拭って、彼女――星は愛紗と目を合わせずに言葉を紡ぐ。
「……秋斗殿が変わっていようと、我らのすることはなんら変わらん。
そもそも秋斗殿の行動を頭で理解しようとすることこそ無駄だ。それは良く分かっていように。
今は目の前の戦こそ最優先……と思うが?」
「それはそうだが……もしかしたら曹操がなんらかの制約を強いているのかもしれないだろう?
真名開示に血族虐殺。私には秋斗殿がそれを許容するとは思えない」
目的は知っていた。使う手段が自分達のようなモノでは無いことも知っていた。
遠く、官渡で終わった戦の結果を耳に挟んだ二人は、肩を並べていたはずの男を思い出す。
――愛紗は秋斗殿だからこそ躊躇いなくする、とは思えないらしい。
くつくつと喉を鳴らした。
愛紗の憂いは見て取れる。過去の姿に反した結末を知れば知るほどズレが出て、彼の本当の姿を見失う。
「違うぞ愛紗。曹操の元にいるからこそ出来ることが増えたのだ。
彼は自身に向けられる評価に拘らんし、自分が悪徳を為して救える命が多くなるならそれでいい、なんて考える。曹操に無理矢理従わせられているなどとは思わぬ方がいい」
「それは違う!」
遮る声は大きく、愛紗は立ち上がった星を見上げた。
「何が違う?」
まさか愛紗が此処まで秋斗を庇うとは思わず、星も不思議に思った。
眉を顰めて問いかけると、愛紗はギリと歯を噛みしめた。
「星……分からないのか?
彼が今していることは……無辜の人を生贄に捧げているに等しい。袁家だからと言っても罪無き人々はどうなる? 子供達も大人も老人も女も子供も、袁家だからと斬って捨てる? 私達はそんな世を変えたくて、秋斗殿もそんな世界を変えたいと言っていたのだ。
だから……だから家全てで連帯して責任を取れなどと……戦の対価の為に命を捧げろなどと……“あの秋斗殿”が認めるなんて……私には思えないんだ……」
泣きそうな声で消え入るように呟かれた。
愛紗の記憶にあるその男は、無辜の民が傷つけられる事に憤り、単身で命を使い捨てるようなバカ者で……それなのに今回の結果を聞いてしまえば、あの頃の彼が一つも感じられない。
桃香達の理想とは余りにかけ離れたその姿。
自分達とは違うとは思っていたが、秋斗がそれをして当然だと語られることも嫌だった。
確かに……と呟いた星は指を一つ顎に当てた。思考に潜っても、やはり真実は当人しか分からない
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