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真田十勇士
巻ノ十二 都その十二

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「これでどうじゃ」
「いえ、これだけ貰う」
「遠慮はいらぬ、銭は天下の回りものじゃ」
 銭に関心を持たない言葉だった。
「地獄の沙汰も金次第という、銭は必要じゃ」
「回りものであるのと共に」
「必要じゃ、持って行くとよい」
「しかしこれだけは」
「一房は医者の為、もう一房は当面の暮らしの為にじゃ」
 その観点からというのだ。
「持って行くといい」
「左様ですか」
「うむ、ではな」
「まさかこの様な情けを頂けるとは」
「気にすることはない、人は助け助けられてじゃ」
 こうも言う幸村だった。
「だからな」
「それ故に」
「持って行くのじゃ、よいな」
「そこまで仰るのなら」
 物乞いは幸村から銭を有り難く受け取った、そのうえで幸村に深々と頭を下げて言った。
「このこと決して忘れませぬ」
「何、気にすることはない」
「またお会いしたら」
 その時はともだ、物乞いは幸村に言った。
「このご恩を返します」
「だからそれはよい、ではな」
 幸村は笑ってだ、男にこう返してだった。
 その場を後にした、そして宿に戻ると。
 既に家臣達は皆帰っていた、そのうえで幸村を迎えて言った。
「殿、銭ですが」
「これだけ貯まりました」
 部屋の真ん中に銭の房がかなりあった、だが。
 ここでだ、清海がその剃った頭に手をやって申し訳なさそうに言った。
「力を見せて芸をしていましたが銭をまけたうえ勘定を間違えてしまい」
「それがしもです」
 望月も申し訳なさそうな感じだ。
「相撲勝負をしても」
「それでもか」
「負かした相手をついついまけてしまいました」
「ううむ、芸を見せてもな」
「銭を多くは取らなかったからのう」
 次に言ったのは穴山と由利だった、二人はいささか苦い顔になっている。
「見物客は多かったが」
「銭自体はあまり貰っておらぬ」
「わしもじゃ」
 根津も二人と同じだった。
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