巻ノ十二 都その十一
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「いや、このお武家さんいいぞ」
「話が面白くて仕方ない」
「これは聞かねばな」
「しかも銭も安いぞ」
聞く代金のそれもだ。
「幾ら聞いてもこれだけか」
「これならばよい」
「幾らでも聞けるわ」
「そうじゃな」
こうしてだった、都の者達は幸村の話をこぞって聞いた。その為銭は安いが幸村が横に置いた銭を受け取るザルは瞬く間に銭で溢れ返った。
幸村は講釈を程よいところで終えて宿に向かった、だがここで。
一人の物乞いを見てだ、彼が脚が悪いのを見て声をかけた。
「御主脚が悪いか」
「はい、少し痛めていまして」
「左様か」
「何、刀傷で」
「腐ったりしておらぬか」
「大丈夫です、手当はしました」
「それならよいがな」
その話を聞いてだ、幸村は納得した。
そしてだ、そのうえで物乞いにさらに問うた。
「物乞いをしておるのはその傷のせいか」
「それもありますが実はそれがし西国から来た流れ者で」
物乞いは幸村の問いに応えて彼に答えた。
「足軽をしていたのですが」
「その傷でか」
「雇ってもらえず」
「それで物乞いか」
「いや、困ったことで」
「主家はあったのか」
「はい、大友家に」
その家にというのだ。
「お仕えしていたのですが」
「大友家ならば九州の大身、不足はないと思うが」
「いやいや、主の義鎮様が最近妙で」
「妙とな」
「伴天連の耶蘇教にかぶれて神仏をないがしろにし重臣の方々にも無理を言われ」
「そうしたことになってか」
「それがし神仏を敬ねばと思っていますが」
そうした考えだからというのだ。
「耶蘇教ばかりで尚且つ女色にも溺れてきた義鎮様に危うさを感じまして」
「家を出たか」
「左様です、それで織田家にお仕えしようと思ったところ」
「その刀傷でか」
「九州から都に来てすぐにならず者と揉めまして」
それでその時にというのだ。
「こうなった次第です」
「難儀であるな」
「刀傷が癒えたなら」
その時はというのだ。
「何処かの家にお仕えしようかと思っています」
「では物乞いは今だけか」
「そのつもりです」
「ならよいがな。しかし傷を何とかせねばな」
幸村は男の庇っている脚を見つつ述べた、脚は布で大事に覆われている。
「そこは」
「治るのを待っています」
「待つより医者に観てもらった方がよい」
幸村は物乞いにこう返した。
「その方がな」
「しかしそれがしに銭は」
「これで足りるか」
こう言ってだ、幸村は。
講釈で得た銭の中から紐に通して纏めたものの中から一房出してだった。
物乞いに差し出してだ、こう言った。
「医者は」
「何と、それだけ下さるのですか」
「足りぬのならこれも持って行くといい」
もう一房出して来た
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