巻ノ十二 都その十
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「わしの刀はそれはない」
「それはむしろ御主の刀の腕じゃな」
「それ故か」
「どんな刀も血糊が付きじゃ」
そして刃が欠けるというのだ。
「そうなるからな」
「だからか」
「そこは御主の腕じゃな」
「確かに刃に血糊は付けぬし骨も断たぬ」
それが根津の剣術というのだ。
「一瞬で関節のところを斬る、しかもな」
「刃に気を付けてか」
「斬ればじゃ、具足や兜を斬ってもじゃ」
「刃こぼれもせぬか」
「そういうことじゃ、この業物の刀にさらに気を帯させて斬る」
それこそがというのだ。
「わしの剣術じゃ」
「剣術では御主には勝てぬな」
横で話を聞いてだ、海野も唸った。
「そこまでの者だと」
「少なくとも剣術で遅れを取った覚えはない」
根津も海野に返す。
「誰であろうとな」
「そうじゃな」
「そうじゃ、ただ水のことではな」
「わしには勝てぬか」
「御主なら河童でも勝てよう」
「ははは、河童と泳いでも勝てるしじゃ」
海野も水のことでは自信を以て答えた。
「蛟でも濡れ女でも勝てるぞ」
「水の化けものにもか」
「そうじゃ、勝てるぞ」
こう豪語するのだった。
「実際に水の中で誰にも負けたことがない」
「そうじゃな」
「うむ、剣術では御主には勝てぬが」
「水のことではじゃな」
「負けぬぞ」
海野は水についてはこう言った、そうした話をしてだった。
由利がだ、幸村に言った。
「では我等はこれよりですな」
「うむ、路銀を稼いでくれるか」
「それぞれの技で、ですな」
「そうしてくれるか。拙者もな」
幸村自身もというのだ。
「少し稼いでみる」
「どうして稼がれますか」
「講談をするか」
都で講釈師を見たのでそれで思いついた仕事だ。
「水滸伝なり何なりを話してな」
「水滸伝ですか」
「あれは面白い話じゃ」
こう言うのだった。
「だからな」
「それを話してですか」
「路銀を稼ぐか」
「そうされますか」
「うむ、御主達が働いて拙者だけ何もせぬというのは駄目じゃ」
こうも言うのだった。
「拙者も働く」
「それでは」
「うむ、共に稼ごうぞ」
その路銀をというのだ、そうした話をしてだった。
一行は団子を食べ終えるとそれぞれ別れて路銀稼ぎに都の路で芸をした。それぞれの得意な術を使ってだ。
幸村は実際に水滸伝の講釈をしていた、都の者達はその彼等の話を聞いてだった。それで唸って言った。
「いや、この若いお武家さんの話は」
「面白いな」
「話自体も面白いが」
「お武家さんの話の仕方もな」
「実によい」
「面白いわ」
こう言ってだ、幸村の話に聞き入るのだった。
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