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逆さの砂時計
解かれる結び目 5
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正門から続く林の中に騎士姿のエルンストが現れ、私の足元で恭しく跪いた。
 ……まさか、私の後を付いて来てたの?
 「ご自室にお戻りください。貴女は女神マリア。お役目以外では滅多な事で人前に姿を見せてはなりません」
 険しい表情。
 そうね……本来なら、お客様と私語を交わすなんて、私の立場上良くはない。姿を見せるのもそうなんだけど。解ってたけど……
 ……ううん、解ってない。私は何も解ってない。
 女神マリア。私は女神マリア。世界を護る為に死ねと言われている巫の一族最後の一柱。どんなに恐くても逃げられない。逃げる場所なんて何処にも無い。
 ……生贄なんだわ。私は。
 「ええ……そう、ね」
 「屋敷の手前までお送り致します」
 ふらふらと屋敷に向かって林の中を歩き出す私の半歩後ろから、エルンストが付いて来る。
 一瞬、目の端にお客様三人が一礼して神殿に戻って行く様子が映った。
 友達……なのかしら、あの三人は。
 とても息の合った仲の良い友達?
 コーネリアさんとウェルスさんは、もしかしたらちょっと違う関係なのかも知れないけど。
 「……良い、な」
 小さい頃の私とエルンストみたい。あんなに近い距離ではなかったと思うけど、今の私達よりはきっと似てる。だってエルンストは……
 「マリア」
 「……え?」
 呼び捨て? 廊下近くの林の中で自分から私を呼び捨てにした?
 思わず足を止めて振り返ったら、友達の顔に戻ってる。
 「そのリボン、お役目中でも付けてくれてるんだね」
 ……ああ、これ……
 「本当はちゃんと結おうと思ってたのよ。貴方の所為で出来なかったわ」
 左手で結び目を確認すると、少しだけ弛んでる。きっととても不格好だわ、今の私。整地されてるとはいえ山を全力疾走して汗だくになって。そんな責任は負いたくないと我が儘に泣いて。みっともないったらありゃしない。
 だからかしらね。今朝はあんなに動揺してたのに、こうしてエルンストと二人きりで居ても全然ドキドキしない。
 「そうか……ごめんね。じゃあ、これはお詫び」
 「え?」
 私の背後に回ったエルンストがリボンをするりと解く。緩やかな風に浚われた長い白金の髪を手繰り寄せて、手早く三つ編みしてからリボンで括った。引っ張られた感じもないのに、丁寧に編み込まれてる気がする。
 「本当に器用なのね、貴方」
 「どうかな。よく母さんの髪で遊んでた覚えはあるけど……ねぇ、マリア。お役目の時、何かあった?」
 「!」
 「神殿を出て行く様子が普通じゃなかったし。泣いてたのはどうして?」
 貴方は気付いてたのね。……もしかして、礼拝堂に居た皆に伝わってしまってる? お客様にも?
 「……なんでもないの」
 言えない。今更、自分の立場が恐くなったなんて。
 貴方
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