暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
解かれる結び目 3
[4/4]

[8]前話 [9] 最初 [2]次話
た。
 「……ええ。とても」
 冷静になってみれば、うっかり眠ってしまったのは大失敗だ。せっかくの憩いの場が早々と見付かってしまうなんて。エルンストは神殿騎士。私の動向は上官に報告されてしまう。そうなればあの場所も監視対象に指定されるに決まってる。自業自得だけど、残念。
 「そう……。じゃあ、二人だけの秘密にしようか」
 「え? ちょっと」
 何処へ行くの? 裏口から入るんじゃないの?
 「静かに。廊下側から入ろう」
 ……黙っててくれるの? 上官に報告しないでいてくれるの?
 「神様にもお休みは必要なんでしょう?」
 廊下の柱に掛けられた燭台の灯りを背負って微笑むとか。
 なにそれ、ズルい。卑怯だわ。私を喜ばせてどうするつもり?
 「そうよ。お休みは万物に絶対必要不可欠な栄養なのよ。だから、その……」
 「ん?」
 「……ありがと……」
 ……エルンストになら、良いわ。
 本当はもっと一人きりを満喫したいけど。
 私を揶揄って笑う酷い人だけど、理解しようとしてくれるたった一人の友達だから。
 誰か別の人に見付かるまでは、二人の場所でも良い。
 「……ねぇ、マリア」
 「? え」
 緩やかな曲線を描いたエルンストの唇が……心臓の位置に飾られたブローチに舞い降りた。
 「似合ってて、良かった」
 「………………。」
 「ご自室でゆっくりお休みなさいませ。マリア様」
 一礼して去って行く背中を、私は見てない。
 目には映ってるわよ。でも冷静に見られる訳ないじゃない。
 今、私は何をされた? ブローチにキスされた?
 心臓の辺り……胸の辺りを、エルンストに、キス、された……っ?
 「……ッッ!! エルンストのバカ!」
 信じられない信じられない信じられない!! ちゃんと告白すらしてない相手に普通、そういう事する!?
 「不良だわ! 不潔だわ! 変態だわ! 騎士失格の無礼者よ!」
 こんなの、いきなり唇にするより悪質じゃない! どうして急に……
 「……今日の貴方、おかしいわよ……エルンスト……」
 そうだ。急すぎる。どうしていきなりキスとかするの? 今まで主人として……少しは友達として接してくれてたのに。気を許しても良い友達だって、そう思ってたのは私だけなの?
 「……?」
 ぎゅうって、心臓が締め付けられたみたいに痛い。喉の奥が引っ張られてる。どうして私、泣いてるんだろう。
 今日のエルンストは私が知ってる友達じゃない。

 なんか……嫌だ…。



[8]前話 [9] 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ