暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
解かれる結び目 3
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いたり笑ったりする幸せを、私もいつかは感じてみたい。
 そう……思ってた。


 真っ白な法衣に一点だけ色付いた銀のブローチ。心臓の位置に付けてみたのは、諦めの悪さの表れかも知れない。
 私は神々に仕える最後の(かんなぎ)。魔王がいる限り誰かとの恋愛は望めない。
 そうでなくても……私の未来は、一族の力の未来そのもの。
 結婚して子供を残すか、殺されるまで一人きりで過ごすか。それは神々が決める事。自分の意思で扱える物じゃない。
 ……それでも……
 「誰かを好きになってみたい、な」
 ブローチの翼を指先でなぞってみる。尖った部分が無くて丸っこいのは、怪我をしないようにって彼の配慮よね。こういう所も嬉しい。本当に嬉しいのに……
 「不毛ね」
 包装紙を折り畳んで小箱に仕舞う。薄紅色のリボンは……そうね。髪を縛ってみようかしら。ずっと伸ばし放題でそろそろ鬱陶しくなってたし、折角可愛いリボンをこのまま捨てるのも勿体無いわ。
 首筋の辺りで髪をキュッと縛って、正門付近から離れる。お客様が来てるって言ってたから、神殿付近は避けて柵沿いに戻ろう。
 柵の外と違って一度伐採されてから植樹された林は、森の木々とは少し様子が変わってる。
 まず雑草が無いでしょ。地面が剥き出しだから歩きやすいの。木の間隔も、柵の外から神殿が見えない計算と工夫をされてるみたい。だから私が盗み聴きしてるのもバレてない。今日は大きな声を出しちゃったから向こうにも聴こえたかも知れないけど。
 勿論、視線を上げれば背高な神殿の尖った屋根は見えるわ。だって木の何倍・何十倍も大きいのよ、神殿は。雷が落ちたら怖いわね。
 殆ど遊歩道に近い、風の通りが心地好い中を、自室が在る屋敷へ向かってゆっくり歩く。
 ……あ、あれがお客様かしら。
 廊下を挟んで小さく見える中庭の噴水周辺に、大神官様とエルンスト含む護衛の三人、見慣れない格好の男性? 三人が揃って談笑してる。
 その中の一人が……え? 私に気付いた? 遠近感を利用したら人差し指と親指で頭から足先まで軽く摘まめそうな、この距離で?
 表情は見えないけど……なんだろう。微笑まれた気がする。


 「……もう居ない」
 二階の自室の窓から覗いた中庭を占領してるのは、たくさんの鳥と数人の人影と、のんびりした空気。
 きっと忙しい人達なのね。神殿に来たって事は、神託が目的だと思うけど……今日はもうお役目を終わらせてるから、多分部屋に案内されたんだわ。下手に彷徨かれても私の行動範囲が狭められるだけだから、じっとしててくれるとすっごい助かる。とは言え、万が一礼拝堂以外で鉢合わせたら立場上問題があるのよね。
 結局、お客様が居る間は礼拝堂と自室の往復になるのか。窮屈だなぁ……あ、でも。裏門側なら良いかも?
 客室は礼
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