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逆さの砂時計
向かう先は
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《へだ》たりしもの、この場に繋がりしすべてのもの。表れよ、現れよ、具現せよ。形を成せ、音を(まと)え。光と影の狭間に、在れ!』」

 耳に聴こえないなら、聴こえるように。
 目に映らないなら、映るように。
 隠れているものも、閉ざされているものも。
 羽根がこの場所にこだわるのなら。
 この場所に繋がるすべての怪奇現象を実体化させてしまえ。

 そんな、なんとも大雑把で、投げやりな。
 的確な力の行使だった。

「え?」

 彼女の言葉に応じ。
 ポンッ! と水面で弾けた気泡の如く軽やかな音を連れて彼女の目の前に現れたのは、パッと見、五歳前後の可愛らしい女の子。
 白金色の短い髪を揺らし、薄い水色の大きな目を真ん丸に見開いて。
 くびれが少ない、子供特有の柔肌のすべてを空気に曝して。
 女の子はそこに、ペタンと座り込んだ。

「え……えええぇっ!?」

 女の子は酷く慌てた様子で、自らの体をペタペタと触って確認する。
 両手両足を(せわ)しなく見比べ、肩を頬に寄せ、最後に頭部の輪郭をなぞって髪をくしゃくしゃと掻く。

「何故!? どうして私に実体が!?」
「えー、と」

 自分でそうさせておいてなんだが、あまりにも予想外な形が現れたので、フィレスも両目を真ん丸にした。
 非現実的な『何か』を形にしたら、幼い女の子?
 そんなバカな、と目蓋をこすってみるが。
 女の子は変わらぬ姿でそこに居る。

「…………とりあえず、これ、着ますか?」
「え? あ、えー……と。ありが、とう?」

 丈が長い上着を脱いで、立ち上がった女の子に着せ掛ける。
 幼い子供にはかなり大きめだが、肘と膝の辺りでそれぞれ端を巻き上げてリボン縛りにすれば、なんとか服の体裁は保てた。
 着付けを終えて少し落ち着いたらしい女の子が、ふとフィレスを見上げ。
 また、目を丸くする。

「翼!? 羽根!?」
「あー……、はい」

 怪奇現象そのものでも、(これ)には普通に驚くのかと苦笑した。

 しかし、女の子の顔に見覚えある気がするのは何故だろう。
 自宅で見た女性の幽霊と同じ色彩のせいか?

「本物の女神が居るなんて。ああ、だから私の羽根が」
「羽根? これですか?」

 ネックレスの羽根を手に取って見せると、女の子はこくりと頷いた。

「その羽根からは、弱いけど私の力を感じる。私の翼の一部だわ。そう……その羽根が、貴女をここに喚んだのですね」
「そのようですね」

 女の子の背中に翼など無いが、羽根に導かれて来たことは間違いない。
 フィレスも浅く頷き返した。
 すると、女の子がネックレスから離したフィレスの手を真剣な顔で引く。

「私はマリア。 天神(てんじん)
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