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第一章
狸饅頭
大坂でのお話です。江戸時代も落ち着いて暫く経っていました。
「さあ商売商売」
「今日も働くで」
大坂は今日も賑やかです。あちこちから威勢のいい明るい声が聞こえてきます。
そしてこの讃岐屋でもです。主人の秦平と女房のおりょうが今日も朝早くから用意をしています。おりょうが秦平に対して言ってきました。
「ねえあんた」
「何だ?」
「お饅頭もうできた?」
「ああ、今全部できたで」
その蒸されているものを見ながら女房に応えます。
「今な」
「そう。だったらすぐにだよ」
「いや、ちょっと待ってくれや」
「どうしたんや?」
「まだもう少し待っててくれ」
また女房に言います。
「もう少しや」
「もう少しなんか」
「もう少し蒸したら美味くなる」
待っている理由はそれでした。
「それよりもおりょう」
「何や?」
「餅できたか?」
彼が尋ねるのはお餅のことでした。
「餅米は大丈夫なんか?」
「ああ、こっちは大丈夫やで」
「よし、じゃあ饅頭ができたらや」
秦平はそれを聞いて言います。
「餅つくで。すぐにな」
「わかった。すぐ頼むで」
朝も早いうちからかなり忙しいです。まだ暗いというのにお饅頭やお餅の用意をしています。そしてすぐにお店に出すのでした。
「さあ、美味いで美味いで!」
「皆よおさん食べてや!」
二人でお店の前で言います。
「お饅頭にお餅」
「ほな食べてや」
讃岐屋は今日も繁盛です。お客さんがどんどんやって来ます。そのうえでお饅頭にお餅を売っていきます。そして全部売り終わった時です。
「今日も完売やな」
「お疲れさん」
おりょうが秦平に対して言います。
「ほなこれでお休みやな」
「ああ。けどあんた」
おりょうがここで亭主にまた言うのでした。ただ言葉の調子がいつもと違っています。
「そろそろうち等だけやったら手が足りんようになってきてへんか?」
「言われてみればそやな」
秦平もその言葉に頷くところがありました。女房に顔を向けています。
「確かに。最近」
「誰か雇う?」
「けどそこまでの銭はまだないで」
秦平はこう言ってそれには今一つ反省しませんでした。
「うちの店にはな」
「それもそうか」
「子供三人おるんや」
秦平はこのことも話すのでした。
「それにも銭かかるやろが」
「そうやねんな。子供食べささなあかん」
「そっちも忙しいけどな。とにかく今はうちの店には余裕はないで」
「ほなどないする?」
「暫く二人のままやるしかないで」
こう言うしかありませんでした。こうして二人は暫く子供達を抱えて頑張っていました。そうして頑張っているとです。ある日変わったお客が
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