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逆さの砂時計
再会
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 右肩から斜めに斬られる筈だった男の体は、既に消えて。
 剣は虚しく空を裂いた。
 「残念。今回は時間切れのようだ。また遊んでやろう。生きていたらな」
 「レゾネクト!!」
 鼻に付く声だけを残して、レゾネクトの気配が完全に消えた。
 くそっ! クロスツェルの器だけでも回収しなきゃならんっつーのに!
 「ああ……喉が痛い……」
 現れた何者かがその翼をぱたりと羽ばたかせて、泉の手前……本物のクロスツェルが膝を突いてた場所に降り立った。喉元に左手を当てて、んんーっ、などと暢気に調子を整える。
 ……見覚えある女だ。
 いや待て。
 翼?
 純白の翼だと?
 「どうもお久しぶりです、ベゼドラさん」
 剣身を腰に下げた鞘に戻しながら、何故か俺に向かって一礼した。
 「……女神……様?」
 リースリンデが女の背に白く光る翼を見て、頬を紅潮させる。
 確かに、どう見ても翼だな。翔んでたし。
 「はぁ……自分ではまだよく解ってないのですが、どうもそういう話みたいですね。あ。この辺りには結界を張っておきましたので、レゾネクトは二度と現れませんよ。少なくとも此処には」
 透明感漂う白銀の真っ直ぐ長い髪を後頭部で纏めた蒼い瞳の女は、少し垂らした横髪を耳に掛け、足元に落ちてる黒い本を拾った。
 「クロスツェルさんは間に合いませんでしたか。困りましたね……アリアに対する切り札を半分以上レゾネクトに奪われたようなものだ。結晶も、できれば回収したかったんですが」
 結晶。石。
 ……そうか。確か、フィレスとかいう女だ。
 神殿へ向かう切っ掛けになった……
 「やっぱりあの場で訊いとくべきだったんじゃねぇか、クロスツェルの野郎!」
 「はい?」
 「アンタ! アリアを助けてとかいう伝言は誰から受け取ったんだ! 石を渡せっつったのは!? そもそもその翼はなんだ! あの時、アンタは普通の人間だったろうが!」
 この際だ、全部聞き出してやると詰め寄ろうとして、足裏が地面に縫い付けられたみたいに剥がれない。
 「実はその件でお話があるのです。冷静に対応していただく為、失礼を承知で貴方の行動を制限させてもらいました」
 行動を制限? どういう意味だ?
 そう重ねて訊こうとする俺を止めたのは
 「伝言も結晶も、私が……正確には私の片割れがお願いしたの。貴方達がアリアに護られているから」
 「!? お前は……!」
 フィレスの隣に突然現れた、人間年齢なら五歳前後の小さな子供。
 白金の短い直髪に、薄い水色の瞳の女。
 俺が知ってる背格好とは違うが、遠目に何度か顔を見合わせてた相手。
 「うそ……」
 愕然とするリースリンデに、女は子供らしからぬ、ふわりとした笑みを浮かべた。



 生温い闇の中で溶けていく感覚がした。

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