兄弟の章
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大地の女神は自らの御心で、憐れみを分け隔てることなく与え給うた。それはただの慈悲ではなく、内からくる愛によるものであった。女神は言われた。“人よ、心あれば聞きなさい。私の上に原初の神あり。その御方の愛ゆえに、汝等は生み出された。私は私を高く上げて下さった御方に誓おう。原初の神を信ずる者に、大いなる大地の恵みをもたらさんことを。”女神はその証として、雪のように真っ白な薔薇を大地に根付かせた。その花は、冬の凍える寒さの中でも、また夏の乾燥した日照りの中でも枯れることを知らなかった。」
聖文書のヴァール伝第一章からの有名な聖句。
もうお気付きだろうと思うが、ジョージについて噂された伝説とは、この聖文書が由来する。
これはヴァルス教の聖典であるが、これが出来た経緯は、またいずれ別の場所でお聞かせするとしよう。
さて、司祭は朗々と説教を続けていたが、その最中に一人の男が血相を変えて飛び込んできた。
「た、大変です!あの…あの兄弟の…兄弟の墓の…」
男は慌てふためいており、かなり息もあがっていた。そのためか言葉が詰まり、意味が全く掴めない状態であった。
「どうしたというのだ。彼らの墓所に、何かあったというのか!?」
男爵とサンドランドが男の下へ行き、一杯の水を飲ませた。男は水を飲み干すと、息を整えてこう告げてきたのである。
「薔薇が…白き雪の薔薇が、兄弟の墓を覆っているのです!」
その男の言葉に、そこにいる誰もが唖然とした。
今、ここで司祭が語っていたヴァール伝は、その雪の薔薇の奇跡を伝えるものであったからである。
教会にいた者達は皆、直ぐ様兄弟の墓へと急いだ。
そして、着いた先で見た光景は、誰しもが信じがたいものであった。
「何と…!」
兄弟の墓の周囲を、美しくも切ない真っ白な薔薇が覆い尽くし、その大いなる薫りを漂わせていたのだ。
その薔薇は春の陽射しを受けて、この世のものとは思えぬような七色の光を帯びていたと伝えられている。
「やはり…伝説は誠であったか…」
男爵はそう呟き、その場に膝をついた。まるで祈るように。
サンドランドも「確かに…神に愛された者だ。」と言って、同じように膝を折った。
それを見た人々は皆、その雪のように白き薔薇に守られたの墓の前に跪き、この兄弟のために祈りを捧げたと言われている。
この話は後に伝説となり、レヴィン親子の名は今日までも、その音楽と共に語り継がれている。
しかしながら、この墓所が今はどこにあるかは知られていない。
サッハルもドナも、そしてメルテと言う地名さえ、数百年前に地図より消え去ってしまっているからである。
学者の間では、現在フォルスタと言う街が以前のサッハルであった可能性が高いと言われているが、その背後は森に囲まれ、その他の町や村は見
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