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SNOW ROSE
兄弟の章
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 馬車が全部で十五台、大人数での旅となった。
 サンドランドは店をコック長のアッカルドに託し、男爵は執事のマーシャルに留守を預けた。
 楽団員は十八人。声楽ソリストが三人で、ソプラノとテノールは雇いであった。しかし、アルトだけは別で、どうしても同行したかったメルデンが希望したのである。
 サンドランドと男爵は試験を試み、楽譜が読めることと声質の良さで合格させたのだった。
 バスは無論、男爵自らが歌うのである。
 この旅路は七日間。通る街や村で、レヴィン親子の作品を広めながらの旅となった。
 その音楽は喝采を浴び、多くの音楽家や芸術家に影響を与えたと伝えられている。
 取り分けドナでは、一度教会で哀悼演奏が行なわれていたため、熱烈な歓迎を受けた。そしてこのドナの街から、リコーダーとトラヴェルソの名手と名高いハンス・クラヴド=ケルナーと、ヴァイオリンの名演奏家デヴィット・リックが旅路に加わった。
 この二人は哀悼演奏時にも演奏しており、ジョージの作品に痛く感動したのである。そのため、彼の音楽を普及させたいと旅路に参加したのであった。
 だが一つ、この街に不思議な噂が流れていた。

― 若き死者の骸は腐敗するどころか、薔薇の香りを漂わせて眠っているようであった ―

 そんな噂がまことしやかに広がっていたのだ。
 真偽は分からない。
 ただ、教会の司祭の話しによれば、死後四日経っても死臭はしなかったと言う。それ故この土地に埋葬せず、故郷の村へ戻すことにしたのだと…。
 確かめる術はない。ジョージの遺骸は、もはや墓所に眠っているのだから。

 ドナを出発して三日後、一行がもう暫らくでメルテの村に辿り着くころである。
 揺れる馬車の中で、男爵が話し始めた
「サンドランド。ドナやリーヒトで聞いた話しだが…。」
「薔薇の香りのする死者の話しだな。」
「そうだ。ずっと思い出そうとしていたのだが、あの伝説に似てはいまいか?」
「あの伝説?」
「分からんか?この国が建った時代にあったとされる恋人の…」
「そうか…雪薔薇の伝説か…。」
「そう、それだ。男が戦いに出ていた時、女は男のために祈りを捧げていた。雪の降りしきる最中でさえ、毎日のように神の天幕まで登って祈った。しかし、未知の病に冒され、そのまま息絶えてしまう。男は戦を終えて帰還する際、崖から転落して亡くなる。」
「その男の遺骸からは薔薇の香りがし、腐敗することがなかった。」
「神に愛された者に違いないと、愛した女の墓の傍らに葬られた…。」
 サンドランドはこの会話を暫し考え、その口を再び開いた。
「似ているな…。だが、その話しは神話に近い。千年以上も昔の話しだ。実際に起こったわけでもないだろう。」
「だが、こうして人々は語り継いできた。現に彼は伝説の人物に重
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