兄弟の章
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村へ…。
ジョージが村に到着したのは、三月十五日のことである。
彼が村に入った時、大勢の村人が出迎えてくれていた。
「これは一体どういう…。」
ジョージは戸惑った。帰る日時を伝える手紙も出せぬまま、ここへ向かったのだから。どうして自分がこの日に到着すると知ったのだろうか。
「お帰り、ジョージ。」
祖父母が彼の前に歩み出た。何年も会っていないような感じがするのは、きっと…。
「ただ今戻りました。遅くなってすみません。ケインのこと、本当にありがとうございました。」
「何を言ってるんだよ。兄弟そろって同じようなことを…。」
ジョージの言葉に、祖母は涙目になって答えた。それから、この日に到着することを何故知ったのかを話した。
「実はね、昨日の夕方に手紙が届いたんだよ。お店のオーナーさんから。」
「サンドランドさんから!?」
ジョージは驚いた。この日に間に合わせるためには、高額の速達馬車を雇わなくてはならない。
― サンドランドさんには、いくら感謝しても足りないな。 ―
ジョージはサンドランドの細やかな気遣いに、心の底から感謝していた。
そんなジョージに、祖父が話し掛けた。
「良い御方に巡り合えたのも、きっとケインのお陰かも知れんな。さぁ、早く行っておやり。楽師の音を聞かせてやってくれ。」
「何故僕が楽師になったことを…。」
「なに、手紙に全て書いてあったわい。お前がどれ程頑張っていたのかものぅ。ケインも、さぞ喜んどるだろうて…。さぁ、みんなで行こう。」
「はい…。」
そうして彼は、サンドランドから頂戴したリュートを携え、ケインの真新しい墓の前に行ったのである。
その墓は簡素なものであったが、周囲は花で飾られ、素朴な良い墓であった。
「ケイン、帰ってきたよ。遅くなって、ごめんな。結局、お前には何もしてやれなかった。せめて…逝く時だけでも、傍に居てやりたかったよ…。」
ジョージはそう呟くとリュートを取り出し、男爵の前で歌ったあの歌曲を歌い始めた。
あまりにも切ないその歌声に、老夫婦のみならず、周囲の村人達も涙したのであった。
― この歌は、ケインにも届くだろうか… ―
あまりにも早すぎた弟の死。それとは反対に手に入れた幸運。
ジョージは心の中で葛藤していた。
今まではケインのために生きて行くことが目的だった。二人で暮らせる日を夢見ていたのだ。
しかし、ケインが逝ってしまった今、新たに訪れた夢を追い掛けても良いのかと…。
その答えを持つ者はいない。それは解っている。自ら決断せねばならないことであるのだから。
やがてリュートの響きが止み、辺りには春の日の閑かな静けさだけが残った。
暫らくは静かだった。風が草木を揺らす音や小鳥の囀りだけが聞こえてい
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