暁 〜小説投稿サイト〜
SNOW ROSE
兄弟の章
Y
[2/5]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
村へ…。


 ジョージが村に到着したのは、三月十五日のことである。
 彼が村に入った時、大勢の村人が出迎えてくれていた。
「これは一体どういう…。」
 ジョージは戸惑った。帰る日時を伝える手紙も出せぬまま、ここへ向かったのだから。どうして自分がこの日に到着すると知ったのだろうか。
「お帰り、ジョージ。」
 祖父母が彼の前に歩み出た。何年も会っていないような感じがするのは、きっと…。
「ただ今戻りました。遅くなってすみません。ケインのこと、本当にありがとうございました。」
「何を言ってるんだよ。兄弟そろって同じようなことを…。」
 ジョージの言葉に、祖母は涙目になって答えた。それから、この日に到着することを何故知ったのかを話した。
「実はね、昨日の夕方に手紙が届いたんだよ。お店のオーナーさんから。」
「サンドランドさんから!?」
 ジョージは驚いた。この日に間に合わせるためには、高額の速達馬車を雇わなくてはならない。

― サンドランドさんには、いくら感謝しても足りないな。 ―

 ジョージはサンドランドの細やかな気遣いに、心の底から感謝していた。
 そんなジョージに、祖父が話し掛けた。
「良い御方に巡り合えたのも、きっとケインのお陰かも知れんな。さぁ、早く行っておやり。楽師の音を聞かせてやってくれ。」
「何故僕が楽師になったことを…。」
「なに、手紙に全て書いてあったわい。お前がどれ程頑張っていたのかものぅ。ケインも、さぞ喜んどるだろうて…。さぁ、みんなで行こう。」
「はい…。」
 そうして彼は、サンドランドから頂戴したリュートを携え、ケインの真新しい墓の前に行ったのである。

 その墓は簡素なものであったが、周囲は花で飾られ、素朴な良い墓であった。
「ケイン、帰ってきたよ。遅くなって、ごめんな。結局、お前には何もしてやれなかった。せめて…逝く時だけでも、傍に居てやりたかったよ…。」
 ジョージはそう呟くとリュートを取り出し、男爵の前で歌ったあの歌曲を歌い始めた。
 あまりにも切ないその歌声に、老夫婦のみならず、周囲の村人達も涙したのであった。

― この歌は、ケインにも届くだろうか… ―

 あまりにも早すぎた弟の死。それとは反対に手に入れた幸運。
 ジョージは心の中で葛藤していた。
 今まではケインのために生きて行くことが目的だった。二人で暮らせる日を夢見ていたのだ。
 しかし、ケインが逝ってしまった今、新たに訪れた夢を追い掛けても良いのかと…。
 その答えを持つ者はいない。それは解っている。自ら決断せねばならないことであるのだから。
 やがてリュートの響きが止み、辺りには春の日の閑かな静けさだけが残った。
 暫らくは静かだった。風が草木を揺らす音や小鳥の囀りだけが聞こえてい
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ