兄弟の章
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「ま、頑張ってくれよ。」
軽く笑い、まだどこかしら抜けているジョージの肩を、力強くポンポンッと叩いたのであった。
一つ補足しておこう。
この店で働く切っ掛けを作ったのは、実はジョージの師と呼べる人物なのである。
今から三年前、とある子爵の館で使用人の募集をしていた。一人欠員が出たためである。
そこへジョージが応募してきたのだ。
面接は子爵自ら行なうという異例の試験だったが、ジョージの熱意と誠意に心動かされた子爵は、年令を考慮して一日四時間週四日の仕事を彼に与えた。
当面のジョージの仕事は、厨房での下働きであった。そこで出会ったのがマーガレット婦長である。
マーガレットは一先ずジョージを試した。彼に料理を作らせてみたのだ。
するとジョージは、手早くオムレツとサーモンのソテー、ポテトとリンゴのサラダを作った。どれも単純な料理だが、味が問題であったのだ。
美味かったのである。
それに驚いたマーガレットは、その日からジョージに料理と製菓を本格的に教え始めた。
ジョージは他の誰よりも覚えが早く、半年程で全てマスターしてしまっていた。
そこでマーガレットは子爵に嘆願を出し、子爵の実兄が経営する店に就かせてもらえるように取り計らったのだ。
それは何故か?
それは…マーガレット自身が、彼の身元調査をしていたからである。
才能も腕もあるのだから、若くとももっと時間を働け、賃金の良いところへ行かせてやれぬものかと考えたのである。
これはジョージに話してはいない。
同情も多少はあるにせよ、それだけではこの世界を生きては行けない。彼の力量を見込んでのこと。
それゆえ、彼自身に告げる必要性はないと、そう判断したのであった。
子爵自身も兄のことには一切触れず、他の使用人達さえ噂することすらなかった。
この館の中では、その話は禁句であったのだ。
それゆえに三年もの月日が必要でもあったのだが…。
ジョージには「子爵の知人が経営する店」に推薦する、とだけ伝えられていたのである。
その肝心のマーガレットだが、ジョージが子爵家を後にした数日後、突然子爵に暇をもらって旅立った。
以前から妹夫婦に呼ばれていた遠い南の国、モルヴェリへ行くことにしたのだ。
話しを元に戻すとしよう。
ジョージは製菓場に立っていた。横には見習いのメルデンが来ている。
「さて、どうするか…。」
目の前には材料の山。
「先輩、何を作るのか教えて下さい。」
メルデンは手持ち無沙汰で待っている。
「ちょっと待ってくれよ。って、大して年も違わないんだからジョージでいいって。」
「いいえ、先輩は先輩です。」
そんなメルデンの頑固なとこが、ジョージは何となく…ケインに似てるような気がし
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