暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
静謐の泉
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そろそろ貰っていこうかと思ってな。その代わり、お前には一時の休息をやろう。ゆっくり休むと良い。偽りの創造神に愛された神父。いや、魔法使いクロスツェル」

 体から腕が引き抜かれていくのを感じる。
 痛みを感じないのは驚きのせいなのか、実際そういうものなのか。
 なんにせよ、苦しまなくて済むのは多少気が楽で、助かります。

「休みなんて、もう少しだけ待っていただければ……勝手に、訪れたんですけど……、ね……」

 体から力が抜ける。
 いや、引っ張られているのだろうか。
 腕が完全に引き抜かれる寸前、ベゼドラの声が聞こえた気がする。

 ……ほら、ね?
 先手を打っておいて、正解だったでしょう?
 貴方も、面倒くさいとか言ってないで、少しは先を読む努力をしなさい。

 あとは お願いします ね  ベゼドラ



 前方へ傾いた体は、とすん、と音を立てて水面に打ちつけられ。
 泉の内側へと飲み込まれるように滑り落ちた。
 それは、ほんの数秒間の出来事。

 水上に浮かぶもう一人のクロスツェルが手に持っている、小さな布袋。
 そこから取り出された薄い水色の宝石を見て、リースは目を見開いた。

 それは、聖天女に近い力なんかじゃない。
 それは、ただの宝石なんかじゃない。

「……聖天女、さま!?」

 かつて勇者達と共に泉を訪れた、神々と人間世界とを繋ぐ(かんなぎ)で。
 天神(てんじん)の一族、最後の一柱で。
 精霊族に人間の言葉を教えた、最初の女神。
 古の昔に聖天女と称されていた、白金色の髪と薄い水色の目を持つ少女。
 現代この世界には居ない筈の『彼女』の意思、そのものだった。


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