暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
静謐の泉
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。少しだけこの周辺を歩き回っても良いですか?」
「もちろんよ。自由に調べて」

 ふわん、と離れて、どこへ行くのかと目で追ってみれば。
 ベゼドラに向かって「花を踏まないで!」と怒りだした。
 対するベゼドラが「無造作に生えまくってるのが悪いんじゃねーか!」と言い返しては、「花園なんだから群生は当たり前でしょ!」と言い返され、実年齢不詳者同士の大人げない口論が始まる。

 王都の宿でも、たまに言い合ってはいたが。
 あの時とは、リースの勢いがまったく違う。
 たった一口分の水で、凄まじい回復だ。
 精霊がそういう種族なのか、泉の水に特殊な力があるのか。
 どちらもか?

「アリアが眠っていた泉、か」

 膝を突いたまま身を乗り出して、水面を覗いてみる。
 自分の顔が細部まではっきり映し出されると、なんとも奇妙な感覚だ。
 人工的な鏡より、よほど綺麗に映っている気がする。
 それでいて水中は澄んでいるのか。
 右腕で陽光をさえぎれば、泉の底までくっきりと見えた。

「……冷たい」

 意味もなく、泉に軽く手を入れてみる。
 広がる波紋で、空を背負う自分の顔がゆらゆらと波を打った。

 冷たいと言っても、雪の塊や氷ほどではない。
 外気よりは多少ひんやりする程度だ。
 飲んだら美味しそうな気もするが、生水は人体に悪いのでやめておこう。

「そろそろ行くぞ、クロスツェル! コイツ鬱陶しい!」
「鬱陶しいってなによ! ちゃんと話を……」

 呼ばれて振り返れば、二人の言い合いはベゼドラが(さじ)を投げて強制終了を迎えようとしていた。
 もしかして、彼は論争の類いが苦手だったりするのだろうか。
 最後は大体彼の、面倒くさいや鬱陶しいで締められている気がする。

「ちょっと待ってください。もう少し周りを」

 立ち上がろうとして、視界の端に違和感を覚えた。
 それが何かを確認する前に、鈍い衝撃が胸を貫く。

「懐かしくはないか?」

 腕が。
 水中から伸びた右腕が、自分の胸から背中へ、貫通している。

「己が預かっていた教会で、ベゼドラにその器を差し出した時も、こうして水面から伸びた腕に貫かれていただろう?」

 水面から形を持って現れた自分の顔が、呼吸を感じる距離で笑う。
 金色の目が愉悦に細められている。

 ああ、これは……()()
 ()()()()()()

「……そういえば、欲しがってましたね。薄い水色の宝石」

 にこっと笑い返せば、自分と同じ顔をした彼も、同じように微笑んだ。

 自分自身の微笑む顔を、自分の目で直に見る機会があるとは。
 なんとも微妙な心地です。

「ああ。
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